都会の喧噪を離れて、夫に付き添って郊外の高齢者用住宅地に引っ越してきたペッパ・リー。ベストセラー作家の夫はこの地区に似つかわしい老人だが、50歳のペッパはこの界隈ではまだ小娘といった年齢。しかし彼女は、このままただ朽ちていくだけのような生活に積極的に溶け込もうと努力している。ひたすら夫につくし、料理や家事をこなし、ふたりの子供を育て上げた彼女は、典型的な良妻賢母に見える。しかし彼女の人生には、壮絶な過去が隠されていた……。
原題は「ペッパ・リーの私生活」という意味だが、邦題を『50歳の恋愛白書』にしたのは配給会社の工夫。ヒットした『60歳のラブレター』を意識したのかもしれないが、「ペッパ・リーの私生活」よりはこの方が観客にアピールすることは間違いなさそうだ。ただし映画自体は「恋愛白書」と言うようなロマンチックなものではない。50歳前後の人たちが経てきた人生の歩みをたどりながら、今ここからどうやって生きていくかを問いかける物語になっている。
日本では戦後のベビーブームで生まれた人たちを「団塊の世代」と呼んでひとまとめにするが、アメリカでも第二次大戦後に出生率が急上昇してベビーブームが起こった。この世代をベビーブーマーと呼ぶのだが、団塊世代が1947年から1949年までの3年に生まれた人たちを指すのに対して、アメリカのベビーブーマーは1946年から1959年までの10数年に渡るかなり幅広い年代の人たちなのだ。この映画の主人公ペッパ・リーは、まさにこのベビーブーマー世代。大量消費が礼賛された1960年代に少女時代を送り、1970年代にヒッピー文化の洗礼を受け、1980年代にドラッグにはまり、その後大胆に転向して保守化した家庭人になったヒロインの生き方は、アメリカの戦後史とぴったり重なり合っている。
同じようにひとつの人生を通してアメリカ戦後史を縦断していく映画には、トム・ハンクス主演の『フォレスト・ガンプ/一期一会』があった。じつはそこでヒロインを演じていたのが、本作の主演女優でもあるロビン・ライト・ペン(当時はロビン・ライト)だったのだ。ペッパ・リーの生涯は、その多くの場面で『フォレスト・ガンプ』に登場するジェニーの人生と重なり合う。ジェニーは最後に自滅していくが、ペッパはどん底の生活から救出されて良き妻・良き母となる。これは破滅することのないジェニーの物語なのだ。
かなり重いテーマも抱えた映画だが、多くのシーンにユーモアがあってクスクス笑いが止まらない。中でも親友役のウィノナ・ライダーが最高におかしくて、この映画の爆笑ポイントは彼女が作っている。キアヌ・リーヴスは重要ではあるが地味な役で出演。モニカ・ベルッチは登場シーンこそ少ないがかなり強烈なトラウマ・キャラ。若い頃のペッパを演じたブレイク・ライヴリーが好印象で、ロビン・ライト・ペンに負けない存在感でした。
(原題:The Private Lives of Pippa Lee)