オーシャンズ

2009/10/28 シネマート六本木(Screen 4)
『WATARIDORI』のジャック・クルーゾー&ジャック・ペランの新作。
今回は海の生きものたちが主役だ。by K. Hattori

Oceans  ジャック・ペランが手掛けたネイチャー・ドキュメンタリー映画の最新作。これまでにも『ミクロコスモス』や『WATARIDORI』などの映画を作っているペランだが、今回は『WATARIDORI』に引き続いてジャック・クルーゾーとの共同監督。「海ってなに?」という少年の問いかけに海洋学者が答えるという趣向で、地球上の他のどんな自然よりも手つかずのまま残される海洋自然の豊かさを紹介していく。

 個々の映像自体は、今どきそれほど面白いものではない。海洋ドキュメンタリーにはジャック=イヴ・クストーの『沈黙の世界』以来の長い伝統があるし、テレビ番組でも映画でも海をテーマにしたドキュメンタリーは山のようにある。最近ではBBC制作の「ブルー・プラネット」やその映画版『ディープ・ブルー』が注目を浴びた。もちろん面白い映像はいつ観ても面白いし、驚異的なシーンはいつ観ても驚異的なのだが、素材の斬新さや新奇さという点で、『オーシャンズ』に新鮮味があまりないのは事実だろう。

 しかしそれなら『オーシャンズ』はつまらないのか? 決してそんなことはない。むしろ面白い。映画としての工夫が詰まっていて、僕はそれに感心しながら最後まで映画を楽しむことができた。この映画が面白いのは、映像よりも「音」によるところが大きい。海の中で聞こえてくるさまざまな音が、映像を劇的に盛り上げるのだが、ここで収録されている音の多くはアフレコされた効果音のはずだ。観客はテレビのドキュメント番組などで海中映像を見慣れているから、少し注意して耳を傾けるだけで、この映画に収録されている音のほとんどが現実の音ではないことに気づくだろう。海底の砂地を魚が歩いて行くときに立てるサラサラという音も、大型の魚がギョロリと目を動かすときの音も、そんなものは海中に仕掛けたマイクでいちいち拾えるような音ではないのだ。これらは『スター・ウォーズ』の宇宙船の飛行音やライトサーベルのうなりと同じで、編集過程で後から録音して付け加えている。しかしこの音によって、映像がじつに生き生きとして来るではないか。映画を観ながら、僕はなんどか吹き出しそうになってしまった。うっかりしていると現実音そのものだと思わされてしまいそうな、ささやかだが効果的な演出だ。

 「海の生物多様性を守れ」といったメッセージは、この映画にある圧倒的な映像の迫力の前に弱々しく感じられる。個人的にもっとも強烈な印象を残したのは、小魚の群れの中に飛び込むカツオドリのダイビング。クジラに追い立てられて水面を盛り上げるほどに密集した小魚の群れの中に、はるか上空から一直線に飛び込んで行くカツオドリの姿は、まるで水中に向けてピストルやライフルを発射したようなもの。海の一点にクジラと小魚と鳥たちが密集して、壮絶な弱肉強食のドラマが展開するこのシーンが観られただけで、僕はこの映画を観た価値があったように思う。

(原題:Oceans)

2010年1月22日公開予定 TOHOシネマズ日劇3ほか全国ロードショー
配給:ギャガ
2009年|1時間43分|フランス|カラー|シネスコ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://oceans.gaga.ne.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:オーシャンズ
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