キングコングを持ち上げる

2009/10/23 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(Screen 3)
ケガで引退した元重量挙げ選手が女子高生たちの鬼コーチに。
第22回東京国際映画祭公式出品作品。by K. Hattori

Liftingkingkong  1988年ソウル・オリンピック。国家の威信をかけたこの大会で金メダルにあと一歩及ばなかった重量挙げ選手イ・ジボンは、この時のケガが原因で選手生命を絶たれた。重量挙げのようなマイナー競技では、金メダルを取れなかった選手になど世間は誰も見向きもしない。ましてやそのまま選手を引退してしまった男など……。だが彼の身を案じる友人が、地方の女子校で重量挙げ部を新設させて彼にコーチを依頼してきた。最初はまるでやる気のなかったジボンだったが、生徒たちのひたむきさに打たれて鬼コーチに変身。新米コーチ率いる新設チームは着実に実力を付けていく。

 実話を元にしたという触れ込みのスポ根映画で、ユニークなのは「女子重量挙げ」という、およそ華やかさのカケラもない超マイナースポーツをモチーフにしていることだ。重量挙げなんて、そもそも身近でやっている人に出会ったことすらない。テレビ中継なんてそれこそオリンピックの時以外は有り得ない。ルールすら一般にはまったく知られていない。物語はすべてが特定のモデルに依拠しているわけではなく、複数のコーチや選手たちのエピソードを取材してひとつの物語の中に織り込んでいるらしい。「寄せ集めの落ちこぼれチームが奮起してトップに立つ!」という筋立てはスポ根ものの定番。落ちこぼれチームに集まる奇妙奇天烈な生徒の面々や、主人公の功績を横から奪い取るライバル校のいけ好かないコーチなど、キャラクターの作り込みもパターン通りマンガチック。これではどんどん「実話」らしさから遠ざかってしまう。

 映画の傾向として、僕は田中麗奈主演の『がんばっていきまっしょい』を思い出した。『がんばって〜』もボート競技というマイナースポーツがモチーフ。新設女子ボート部の寄せ集め部員たちが、初参加の大会でボロ負けして奮起すると、そこにいわくありげな新任コーチがやってきて本格トレーニングが始まるというストーリー展開など、そのまま本作『キングコングを持ち上げる』にも通じるではないか。そういえば『がんばっていきまっしょい』も、原作者の実体験を元にした話だった。要するに実話系なのだ。しかし『がんばって〜』はマンガじみたコミカルさのないリアリズムで、『キングコング〜』はスポ根ドラマの定型フォームを図式的になぞる。どちらがいい悪いということではなく、これは目指すべき方向性がはなから違うのだ。

 面白い映画で感動もするのだが、僕がずっと不思議でならなかったのは、男性コーチが女子生徒たちと合宿に出かけるとか、身よりのない生徒を部室で寝泊まりさせるとか、別の男性のコーチが女子生徒たちにケツ竹刀の体罰を繰り返すといったシーンに、映画の作り手が性的なニュアンスをまったく感じていなことだった。それがなぜかを突き詰めて考えると、そこにはこの映画が持つ差別性が隠されているように思う。

(英題:Lifting King Kong)

第22回東京国際映画祭 アジアの風/東アジア
配給:未定
2009年|1時間59分|韓国|カラー
関連ホームページ:http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=75
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:キングコングを持ち上げる
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