マニラ・スカイ

2009/10/19 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(Screen 7)
マニラで働くワーキングプアの男が選んだ非常手段とは?
第22回東京国際映画祭コンペ作品。by K. Hattori

Manisuka  映画を観ていて「これは一杯食わされた!」というオチに出くわすと、映画ファンは嬉しくなる。それは映画の冒頭から終盤まで、ずっと観てきた映画の意味がガラリと変えられてしまう一瞬だ。ミステリー映画で意外な犯人が出てくるどんでん返しも「これは!」と思うが、それと「一杯食わされた!」はちょっと違う。むしろこれは巧妙に演出された手品を、目の前で鮮やかに決められたときのような驚きと喜びだ。『ふくろうの河』や『シックス・センス』のどんでん返しは古典的な「映画の手品」だが、本作『マニラ・スカイ』も映画冒頭とラストに仕掛けられているマジックについニヤリとしてしまう。残念なのはこの冒頭とラストの鮮やかな手並みが、中間部分でほとんど発揮できていないこと。映画の大部分を占める中間部分は、なんとも野暮ったくて、泥臭くて、どんくさい、愚直な映画であったりするのだ。しかしこの野暮で泥臭い風情は、そのままこの映画の主人公の性格に通じるものでもある。それにこの野暮ったさがあればこそ、映画の最後に「これは一杯食わされた!」とも思うのだ。こんなにモタモタ展開していた映画が、まさか最後の最後にあんなことになるとは……。

 貧しい地方から大都会マニラに出て働くラウルは、何年働いても貧困から脱出できない暮らしにウンザリしている。給料を上げてほしい。だがフィリピンの経済格差は大きく、マニラには若い失業者が溢れている。「お前の替わりなどいくらでもいる」は、労働者たちにとってまぎれもない現実なのだ。休みなく働き続けても一言文句を言おうものなら、すぐにでもクビにされてしまう。生きていくのにギリギリな、しかも不安定な生活状況。いっそ海外に出稼ぎにでも行こうか? しかし職を求める人びとを食い物にするブローカーたちが、出稼ぎ希望者たちを食い物にしている現実もある。だがそんな悪徳業者たちは、事務所にしこたま金を貯め込んでいるのではないか? ラウルは仲間たちに誘われて、悪徳ブローカーの事務所を襲撃する計画に加わることにしたのだが……。

 映画祭のパンフレットは主人公ラウルを「青年」と表現しているのだが、主演のラウル・アレリャーノは1965年生まれで既に40歳代半ば。当然映画の主人公も、それ相応の年齢が想定されているに違いない。貧しい田舎を飛び出して、マニラで仕事にありついて、毎日必死に働いて、食べるものも食べずに働いて(昼食はクラッカー1枚!)、靴底をすり減らして働き続けて、そろそろいい年のオッサンになっているというのに、その日その日を何とか生きていくことだけが精一杯の一人暮らし。親しい友達もなく、恋人もなく、いっそ田舎に帰りたいと思ってもその金すらない。

 間抜けで残酷な強盗シーンに息を呑み、その後の奇想天外な行動にハラハラ。あっと驚くラストシーンには、抜け出す道なき「貧しさ」の連鎖にため息が出る。

(原題:Himpapawid)

第22回東京国際映画祭 コンペティション
配給:未定
2009年|1時間50分|フィリピン|カラー|1.85:1
関連ホームページ:http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=11
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:マニラ・スカイ
関連DVD:レイモンド・レッド監督
関連DVD:ラウル・アレリャーノ
関連DVD:ジョン・アルシリヤ
関連DVD:ロニー・ラザロ
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