蘇りの血

2009/10/13 シネマート銀座試写室
小栗判官の伝説を大胆に脚色したバイオレンス映画。
豊田利晃監督4年ぶりの復活。by K. Hattori

Yomigaeri  江戸時代初期に成立した説教節の登場人物であり、浄瑠璃や歌舞伎にも翻案されて日本人によく知られている小栗判官の物語を、『青い春』や『ナインソウルズ』の豊田利晃監督が映画化。原話では常陸の城主だった小栗を無名の按摩にするなど設定はあちこち変えているが、豪族に殺された小栗が蘇り、その屋敷にいた照手姫の手で救われるという筋立ては変わらない。主人公の死と復活を水が媒介するという描写が寓話的だし(みそぎやキリスト教の洗礼に通じるモチーフだろう)、死を通り抜けて何度も巡り会う男と女の姿には「運命の恋」などという言葉では表現しきれない強烈なインパクトがある。またドラマのクライマックスには、魯迅の小説「鋳剣」のエピソードが引用されている。

 この映画に登場するオグリは、己の腕ひとつで各地を渡り歩く按摩(マッサージ師)だ。性病を患ったさる国の大王を治療するためとある国を訪れた小栗だったが、嫉妬深い大王はオグリが去ることを妬み、彼に毒を飲ませて自由を奪った上に惨殺する。殺されたオグリは冥界で閻魔大王に「俺はまだ生きていたい」と言ったところ、その願いはあっさりと叶えられた。口もきけず、身動きも撮れない餓鬼阿弥の姿となったオグリを、大王のもとを逃げ出したテルテが蘇りの湯へと運ぼうとする。だがそこに大王と追っ手たちが追いついて……。

 原話の小栗判官物語では、主人公小栗が照手姫を見初めて妻とする物語があるのだが、映画はそこをバッサリと切り捨てる。オグリは自らの意志で危険の中に飛び込んだわけではなく、大王に呼び出され、嫉妬深い大王になぜか恨まれ、殺されてしまうのだ。テルテがなぜ大王の屋敷にいたのかはわからないが、彼女は奴隷の烙印を押されて、いずれは大王の慰みものになる身の上。オグリの死後に大王のもとを逃げ出し、途中でオグリに再会して蘇りの湯まで運ぼうとする。この映画が描いているのは、オグリとテルテが理不尽な暴力から逃げようとする逃避行だ。ふたりは英雄ではないし、悲劇の主人公ですらない。彼らには「犠牲者」という呼び名こそが相応しい。ふたりは大王から逃げ、ひたすら逃げ、逃げ切れないままに再び傷つけられる。

 基本的に主人公たちが逃げ続ける話ということもあって、ドラマはあまり盛り上がらない。また騙し討ちのように殺されたオグリは蘇る段階で復讐を目指しておらず、この点からも物語は受け身で消極的なものになってしまう。オグリが復讐を行うのは、自分が傷つけられたからではなく、テルテが殺されたからなのだ。このあたりは、この映画の中にある構造的なねじれだろう。

 オグリに比べると、テルテの方がずっと行動的。しかし映画の中でもっとも主役に相応しいのは、オグリとテルテの仇となる大王かもしれない。自ら欲望のままに行動するエネルギッシュな暴君。この行動力の半分でも、オグリにあったらなぁ。

12月19日公開予定 ユーロスペース
配給:ファントム・フィルム 宣伝:スキップ
2009年|1時間23分|日本|カラー|ヨーロッパビスタ|モノラル
関連ホームページ:http://yomigaeri-movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:蘇りの血
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