マーターズ

2009/07/17 映画美学校第2試写室
日曜日の朝、閑静な住宅で復讐の猟銃が一家全員を惨殺する。
だがこれは本当の恐怖の前触れに過ぎない。by K. Hattori

Martyrs [DVD] [Import]  1971年のフランス。監禁されていた廃工場からひとりの少女が脱出し、身寄りのない彼女は福祉施設に保護された。彼女の名はリュシー。全身に凄惨な拷問の跡が残っていたが、性的な虐待は受けていない。犯人は捕らえれることなく、その正体や目的は謎のままだった。それから15年後の静かな日曜の朝。リュシーは森の中にある閑静な住宅を予告無しに訪問すると、持っていた猟銃で一家4人全員を射殺した。偶然新聞で見かけた一家の写真から、彼女はその家の夫婦こそが自分を虐待した犯人だと確信したのだ。同じ施設で育った親友アンナはリュシーのただならぬ様子に後を追っていたが、リュシーが一家を皆殺しにしたと知ってやむを得ず遺体の後始末を手伝う羽目に。だがこの殺戮は、本当の恐怖のほんのプロローグに過ぎなかった……。

 フランスのパスカル・ロジェ監督による、ミステリアスなサスペンス・ホラー映画。映画は前半と後半に別れていて、前半は少女時代に誘拐されたリュシーによる復讐劇。後半はそのリュシーに巻き込まれる形で、新たな被害者となる親友アンナの悲劇が描かれる。前半はバイオレンスとアクションたっぷりのサイコ・サスペンス。リュシーは子供時代の体験が原因で精神を病んでいるため、殺された一家が本当に誘拐犯なのかがさっぱりわからない。ひょっとしたら、これは勘違いによる殺人なのではないか? 一家を皆殺しにした後、リュシーの前に現れる謎の女というのも強烈なインパクトがあるのだが、この女の正体が映画の中盤で明かされるシーンにはめまいにも似た衝撃がある。アンナはこの女の正体を知っていて、だからこそリュシーの身を案じていたのだ。

 黒ずくめのオカルト秘密結社が登場する後半は、映画前半とはまったく毛色の違った映画になる。前半のミステリアスなサスペンスのムードは消え去り、そこにあるのはむきだしの暴力だ。徹底した苦痛と恐怖のみを引き出そうとする、大規模でシステマチックな組織的暴力。映画前半は「何が出てくるかわからない」という不安に基づく恐怖だったが、後半は開始早々に手の内がすべてバラされてしまう。隠されているものはない。すべては終わりに向かって、敷かれたレールの上を淡々と進むのみ。映画冒頭でリュシーが脱出に成功したように、アンナも監禁から逃れられるに違いないというわずかな希望。しかしその希望も、やがて小さく萎縮してしまう。

 前半と後半でそれぞれ独立した1本の映画になりそうな話なので、前半・後半どちらが好きか、どちらを評価するかという意見は分かれそう。前半の面白さは、ストーリーの語り口が生み出している面白さ。後半の面白さは、ストーリーを生み出すユニークな設定の面白さで、この設定を使い回していけばこの映画はあと2〜3作はシリーズ化できるのではないだろうか。信仰と人間への尊厳を失ったところで成立する聖人崇敬というのは、風変わりで新しいアイデアだと思う。

(原題:Martyrs)

8月29日公開予定 シアターN渋谷(レイト)
配給:キングレコード、iae 宣伝:エイスワンダー(B.B.B.Inc.)
2007年|1時間40分|フランス|カラー|アメリカンヴィスタ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.kingrecords.co.jp/martyrs/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:マーターズ
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