さそり

2009/07/08 TCC試写室
梶芽以子主演の人気シリーズを水野美紀主演でリメイク。
主題歌「怨み節」を中村中が熱唱。by K. Hattori

Sasori  篠原とおるの原作は1970年から雑誌連載が開始され、72年から翌年にかけて東映で梶芽以子主演の『女囚さそり』シリーズ4作が作られている。その後も多岐川裕美や夏木陽子主演でリメイク版が作られ、さらに岡本夏生、小松千春、斎藤陽子、水橋貴己といった女優たちが、ヒロインの松島ナミを演じ続けてきた。今回ナミを演じるのは、「踊る大捜査線」シリーズの水野美紀。

 製作は香港と日本の合作だが、撮影は香港で行っている。監督は『ファイティング・ラブ』や『雨音にきみを想う』のジョー・マ。共演の石橋凌や夏目ナナなどごく一部のキャストを除きほとんどが香港の俳優たちだが、その顔ぶれはじつに豪華だ。サム・リー、ブルース・リャン、サイモン・ヤム、ラム・シュなど、香港映画ファンなら誰もが顔を知る人たちがずらり。主演の水野美紀はもともとアクションが得意な女優ということもあり、今回の映画でもアクションシーンは吹替なし。ただし本作では台詞がすべて日本語吹替になっていて、水野美紀も自分自身で改めて日本語の台詞をアフレコしている。

 僕は『女囚さそり』シリーズを未見なのだが、映画データベースなどでストーリーを調べてみる限り、今回の映画は『さそり』シリーズとは別もののように思える。自分の信頼する人たちすべてに裏切られ、たったひとりで孤独な復讐の鬼になる……という基本的な設定が、この映画では既に壊れているように思えるのだ。ナミは4人組の殺し屋に脅迫されて、刑事でもある恋人の両親を自らの手で殺す。刑務所に送られたナミは所内で凄惨なリンチに遭って半死半生の状態で刑務所の外に捨てられるが、謎の老人に救われて武術を習得し、殺し屋たちとその背後の黒幕に復讐するのだ。これは『女囚さそり』の設定を一部借りながら、じつは『女囚さそり』に触発されて作られた『キル・ビル』をなぞっているのだろう。もちろん刑務所内でのシーンも多いのだが、主人公は意外と早めに刑務所から出てきてしまう。その後彼女が日本刀を持って戦うというのは、『キル・ビル』のユマ・サーマンそのものではないか。違うのは『キル・ビル』のヒロインが婚約者や家族や友人たちすべてを殺されるのに対し、この映画では婚約者が生き残るということ。この婚約者はその後記憶を失い、再びナミのもとに現れるのだ。彼女が再び彼との愛を取り戻せるかが、映画後半のひとつのテーマになっていく。

 しかしこの映画、残念ながら僕はまるで面白いとは思えなかった。これはそもそも脚本が悪い。登場人物たちのキャラクターが、主人公クラスの人物も含めてどれもペラペラなのだ。この映画にストーリーはある。しかし魅力的なキャラクターがいないから、そのストーリーがまるで生きたものになっていない。もうすこし各登場人物たちのバックグラウンドをしっかり作り込めば、ドラマにも多少の厚みが出てきたように思う。

(原題:蠍子 Sasori)

8月8日公開予定 銀座シネパトス、シネマート六本木ほか全国順次ロードショー
配給:アートポート
2008年|1時間40分|日本、香港|カラー|ビスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.artport.co.jp/movie/sasori/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:さそり
関連DVD:ジョー・マ
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