劔岳

点の記

2009/07/03 楽天地シネマズ錦糸町(シネマ1)
明治末期に富山の劔岳への初登頂を目指した男たちの物語。
名キャメラマン・木村大作の監督デビュー作。by K. Hattori

剱岳 点の記 オフィシャルガイドブック  森谷司郎監督の『日本沈没』や『八甲田山』、深作欣二監督の『復活の日』や『火宅の人』、岩下志麻主演の『極道の妻たち』シリーズ、そして降籏康男監督・高倉健主演コンビによる『駅 STATION』『居酒屋兆治』『夜叉』『あ・うん』『鉄道員(ぽっぽや)』『ホタル』など、日本映画を代表する作品を撮り続けてきたカメラマン、木村大作の監督デビュー作。明治末期、地図を作るため立山連峰の剱岳への測量登山に成功した陸軍参謀本部陸地観測部の測量官・柴崎芳太郎を主人公に、地元の山案内人・宇治長次郎との信頼関係や、発足したばかりの日本山岳会との先陣争いなどを描いた作品だ。

 聖なる山とされていた劔岳への登頂に難色を示す地元民との対立や、案内人・長次郎とその息子との葛藤、陸地観測部における柴崎への期待と初登頂へのプレッシャー、部下の測夫や人夫たちの不満をどう収めていくか、謎めいた山岳修験者との係わりなど、人間同士の衝突や葛藤のドラマも一応は描かれている。しかしこの映画にとって最大の「葛藤」は、人間を拒み続けてきた厳しい山とそこにあえて挑もうとする人間たちの戦いの中にこそあるのだ。これに比べれば、主人公と上官たちとの対立など何ほどのものでもない。山岳会との先陣争いなど、どうということはない。山は主人公の前に文字通り壁となって行く手をさえぎり、頂上への道を一歩も進めさせまいとする。その山にあえて挑み、困難をひとつひとつ克服しながら山頂を目指す過程こそが、この映画にとってのドラマそのものなのだ。

 この映画を観て「人間ドラマが弱い」と感じる人がいるとすれば、それは映画が描こうとしているところを観ずに、別のところを観ているのだと思う。目の前に出されたステーキの肉を味わうことなく、付け合わせの野菜に文句を付けているようなものだ。はっきり言って、この映画にとって陸地観測部でのゴタゴタなどは一切が不要なのだ。しかしそれらを一切切り捨ててしまうと、お客に出す料理としては体裁が悪い。だから形式的に付け合わせの野菜も付いてくる。主人公たちが山に挑むきっかけや経緯を、なんとなく再現ドラマ風に理解できればいいシーンだ。

 基本的に男ばかりがエッサホイサと山に登る男臭い映画なのだが、浅野忠信と宮崎あおい演じる夫婦のシーンが意外に印象に残る。より正確に言うと、宮崎あおいの表情がものすごく印象に残るのだ。彼女の存在によって、主人公の柴崎が「何のために山に登り、何のために山を下りるのか?」という動機がはっきりと見えてくるように感じた。彼はこの妻のために測量技師という仕事に誇りを持って打ち込み、この妻に再び会うために山を下りるのだ。柴崎の台詞は極端に少ないのだが、夫婦のシーンがあることで人物像がくっきりと立ち上がっている部分が多いと思う。測量隊や山岳会のメンバーにはそれぞれ家族がいる。それを柴崎と長次郎の家族を通して描いているのだ。

6月20日公開 丸の内TOEIほか全国ロードショー
配給:東映
2009年|2時間19分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.tsurugidake.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:劔岳 点の記
原作:劒岳―点の記(新田次郎)
関連書籍:剱岳 点の記 オフィシャルガイドブック
関連書籍:もうひとつの劔岳 点の記
関連書籍:誰かが行かねば、道はできない -木村大作と映画の映像-
関連DVD:木村大作監督
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