九月に降る風

2009/07/02 シネマート銀座試写室
いつも仲良くつるんでいる男子高校生7人組の青春。
青春の痛みをリアルに描いた台湾映画。by K. Hattori

9wind  いつもつるんで授業をサボったり、遊びに出かけたり、イタズラをしたりしている高校生男子7人組と、そんな彼らを見つめる2人の女子生徒を主人公にした台湾の青春映画。物語の中心になるのは、7人組のひとりであるタンという男子生徒。彼は同じグループのイェンと特に仲のいい親友同士だが、イェンの恋人であるユンにも心惹かれている。だがそれは決して口にも態度にも出さない、秘められた淡い恋心だ。彼らの関係は、危うくもろいバランスの上に成り立っている。何か目的や規律があって集まっているわけでもない7人組。だがその関係はいくつかの事件を通して、あっという間に崩壊して消滅してしまう。主人公たちは無邪気な少年時代から、自分自身の行動に責任を問われる大人の世界に一歩近づいていくわけだが、その成長は大きな痛みを伴うものになる。

 監督・脚本のトム・リンは1976年生まれで、映画の時代背景は1996年の9月から翌年の夏に設定されている。エピソードの多くは監督自身の高校生活をモデルにした自伝的なものだというが、それなら時代は映画に描かれているより数年前になるはず。映画が物語を1996から翌年までにしているのは、この時期の台湾には社会を驚かせた「プロ野球八百長疑惑事件」があったからだ。1990年に発足した台湾プロ野球はわずか数年で人気スポーツとしての地位を獲得したが、96年に野球賭博にからんだ八百長疑惑が発覚して、翌年にかけて数十人の逮捕者を出す大スキャンダルになった。映画の中では主人公の少年たちが憧れのプロ野球選手たちに失望幻滅してゆく姿を通して、少年たちにとっての「夢の終わり」を描いている。現実の世界にヒーローなんていない。現実の社会は薄汚くて嘘ばかりだ。そんな現実に気づいたとき、少年たちの世界もまた変わらざるを得ない。仲間たちと野球を観戦していた少年たちが、あまりの試合のひどさに「とんだ茶番だ!」と観客席から立ち去った時、この映画は終わりに向けて大きく舵を切っていく。少年たちは野球を見捨て、少年時代に別れを告げ、それぞれの道を歩んでいくのだ。

 トム・リン監督はこの映画の脚本に青春時代の怒りをぶつけながら書いたというが、映画のラストシーンで自分自身の分身である主人公タンを「少年たちの夢」と和解させている。壊れてしまった夢。泥にまみれた偶像。裏切りと欺瞞。それらをすべて受け入れることで、少年は大人になる。ラストシーンのタンは、この映画を作った監督自身の今の姿を象徴しているようにも見える。

 僕自身は監督よりさらに10年前に高校時代を送っているのだが、映画に登場するエピソードの中に自分自身の体験と重なり合う部分も多かった。映画の中の少年たちは、おそらく高校卒業後は疎遠になってしまうだろう。僕も高校時代に仲の良かった連中と、卒業以降はほとんど連絡を取っていない。彼らは今どこで、何をしているだろうか……。

(原題:九降風 Winds of September)

8月下旬公開予定 ユーロスペース、シネマート新宿
配給&宣伝:グアパ・グアポ
提供&配給:アジア・リパブリック・エンターテインメント株式会社
2008年|1時間47分|台湾、香港|カラー|1:1.85ヴィスタ|Dolby SRD
関連ホームページ:http://www.9wind.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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