愛を読むひと

2009/06/25 TOHOシネマズ錦糸町(スクリーン7)
少年に愛を教えた年上の女性はナチスの戦犯だった。
ケイト・ウィンスレット主演の文芸映画。by K. Hattori

The Reader [Original Motion Picture Score]  1958年。15歳のミヒャエルは外出中に突然発熱して気分が悪くなり、たまたま通りがかった中年女性の介抱を受けて、自宅近くまで送り届けてもらう。医者の診断は猩紅熱で、3ヶ月間は自宅で隔離治療。やがて病気が治ったミヒャエルが真っ先に向かったのは、自分を介抱してくれた女性の家だった。彼は自分よりずっと年上のその女性に恋してしまったのだ。やがて彼はその女性と初めての性体験を持ち、一人暮らしの彼女の家に入り浸るようになる。彼女の名はハンナ。彼女はセックスの前に、彼に本を読むことをせがむ。朗読はふたりにとっての前戯のようなもの。ミヒャエルはますます彼女にのめり込んでいく。だがある日突然、何の予告もなく彼女は彼の前から姿を消す。それから8年後、法科学生になったミヒャエルの前に、彼女は意外な形で姿を現すのだった……。

 ヒロインのハンナは謎めいた人物だが、キャラクターの輪郭がスッキリと立ち上がった明確さを持っている。彼女に関してはよくわからない点や矛盾する点が、観客にもきちんとわかるのだ。「謎めいた人物」はそれが女性であれば、謎めいている分だけ魅力的になる。ハンナの持つ謎は、謎に求められている機能を十分に果たしているのだ。ハンナを演じたケイト・ウィンスレットは、矛盾だらけのこの人物を存在感のあるリアルな人物に仕上げている。この役でアカデミー賞を取ったこともうなずける、充実した役作りと演技だ。

 しかし僕にはミヒャエルがよくわからない。このわからなさは映画が意図しているものではなく、どこかにボタンの掛け違えがあるのだとしか思えない。映画の前半で、ハンナと関係を持つあたりは「わかる」のだ。これは典型的な「少年の一夏の体験もの」のパターンをなぞっていて、わからないところはまったくない。少年は年上の女性に恋し、関係を持つが、やがて彼女は去っていく。問題は彼が彼女と「再会」した後だ。彼女は彼の心に甘い愛の記憶を残した「初恋の人」であると同時に、彼によって許すことの出来ない憎むべき「敵」であることが明らかになる。彼はハンナの過去をたどる。彼女を理解しようと努める。だがわからない。彼女の過去を、彼はどうしても受け入れられない。ミヒャエルの心は彼女への愛と憎悪とに引き裂かれていくわけだ。

 映画では彼の「愛」は伝わってくる。否定しようとしても、消し去ろうとしても、決して消えない「愛の記憶」がある。それは彼を支配して、決して離そうとしない。だが彼の心にわき上がる「憎しみ」や「怒り」は、映画の中にきちんと描かれていただろうか? 僕はこれが、いささか甘いように思うのだ。アウシュビッツの収容所跡地を旅するミヒャエルの視線を通して、観客にも憎しみや怒りや嫌悪の気持ちを共有させようという作り手の意図は、とても成功しているとは思えない。ハンナに対する許し難い感情を、より直接的に描くシーンが欲しかった。

(原題:The Reader)

6月19日公開 TOHOシネマズ スカラ座ほか全国東宝洋画系
配給:ショウゲート
2008年|2時間4分|アメリカ、ドイツ|カラー|アメリカンビスタ|SRD、SDDS、DTS
関連ホームページ:http://www.aiyomu.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:愛を読むひと
サントラCD:The Reader
イメージソング収録CD:Ken’s Bar II(平井堅)
原作:朗読者(ベルンハルト・シュリンク)
原作文庫:朗読者(ベルンハルト・シュリンク)
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