テラートレイン

2009/05/28 サンプルDVD
東欧遠征したアメリカの大学レスリング部員たちを襲う恐怖。
アメリカ人の対東欧観がかいま見られるホラー。by K. Hattori

 レスリングの国際試合出場のため東欧を訪れていたアメリカの大学生たちが、帰国のため乗り込んだ列車で次々に消えていく。最初に消えたのはコーチ。次はキャプテンが消えた。彼らはどこに連れ去られたのか? 列車の中で何が起き、列車はどこに向かっているのか?

 IMDbによれば、これは1980年の映画『テラー・トレイン』のリメイクだとか。しかし共通するのは列車の中で若者たちが次々殺されていくことや最後にヒロインが生き残ることぐらいで、他の要素はだいぶ変わっているようだ。映画のモチーフになっているのは、東欧で社会問題化している誘拐による臓器売買事件。映画の中では犯罪組織が東ヨーロッパ各地で旅行者を列車に乗せ、ひとりずつ殺しては臓器を高値で売りさばいているという設定だ。話としてはあり得ないものじゃない。しかしそのために、なぜ被害者を拷問しなければならないのか、なぜ揺れの激しい列車内で手術を行わなければならないのか、臓器摘出がきわめて非衛生的な環境で行われていることに問題はないのか、事前に血液型も調べず臓器を切り取ってしまう乱暴さはどうしたことか、などなど疑問点は山のように発生するのも事実だ。しかしこれは仕方のないことだろう。「臓器移植」など言い訳に過ぎず、実際に映画が見せたいのは目を背けたくなるような拷問そのものなのだから。

 映画から透けて見えるのは、欧米人の東欧に対する恐怖心だ。共産主義は崩壊して、東西ふたつの欧州はひとつになった。鉄のカーテンに閉じこめられていた東ヨーロッパの人々が、世界中に自由に移動できるようになった。しかしそれは、「西側」の人々が知らなかった、異質なヨーロッパ、暗いヨーロッパが目の前に開かれたということを意味しているのだ。この映画には西側の考える東欧の負の面が、こってりと盛り込まれている。貧しさ、不潔さ、暴力性、野蛮さ、腐敗した官僚主義、汚職、人間の命の軽さ、秘密主義、マフィアのネットワーク、拝金主義、西側に対する憎悪などだ。質素な灰色の生活の裏に隠された、剥き出しの欲望。それが東ヨーロッパというゴミダメからあふれ出して、今まさに世界中を汚染していく……という強迫観念だ。

 映画に登場する列車は、世界のゴミダメと化した東ヨーロッパそのものなのだ。それはアメリカからの旅行者を飲み込んで食い殺す危険な場所だ。臓器摘出の部屋がきわめて不潔なのは状況設定としてまるでリアリティに欠けているのだが、この不潔さこそが東欧に対するステレオタイプなイメージなのかもしれない。

 しかし現実はどうなのか? この映画も東欧の安い撮影コストに目をつけて、ブルガリアで撮影されている。貧しい東欧を食い物にしているのは、豊かな西側ではないのか? この映画にはそんな西側が東欧に対して秘かに抱いている「罪悪感」が反映しているのかもしれない。西側からの旅行者を捕らえて殺すのは、東欧の復讐なのだ。

(原題:Train)

5月2日公開 銀座シネパトスほか全国ロードショー
配給:ムービーアイ
2009年|1時間34分|アメリカ|カラー|ヴィスタサイズ|SRD
関連ホームページ:http://www.terror-train.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:テラートレイン
オリジナル版:テラー・トレイン(1980)
関連DVD:ギデオン・ラフ監督
関連DVD:ソーラ・バーチ
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