シネマ歌舞伎 特別篇

牡丹亭

2009/05/22 イマジカ第2試写室
2009年3月に行われた坂東玉三郎の昆劇「牡丹亭」蘇州公演。
舞台記録とメイキングの2本立て上映。by K. Hattori

 昆劇(こんげき)は600年の伝統を持つ中国江南の古典演劇。明・清の時代に貴族たちにも愛されて洗練完成の域に達した昆劇は、その後のあらゆる中国演劇のルーツとされ、「百劇の祖」と呼ばれている。しかしその後は京劇の発展に押されて衰退し、文化大革命では消滅寸前にまで追い込まれることになる。しかしその後は徐々に復元復興の努力がなされ、2001年にはユネスコの世界無形文化遺産にも登録された。「牡丹亭」はそんな昆劇の代表的な演目だ。今から20年以上前の1986年、東京国立劇場で「牡丹亭」の日本公演を観た坂東玉三郎は大いに感激し、ヒロインの美少女・杜麗娘(とれいじょう)を自分自身で演じてみたいと考えた。その後ひとり蘇州で昆劇を学び、2008年5月には念願かなって京都と北京で「牡丹亭」の日中合同公演を行っている。2009年3月、その成功を受けた上で玉三郎は昆劇の盛んな蘇州での「牡丹亭」公演を行う。本作『シネマ歌舞伎特別篇 牡丹亭』は、その様子を記録したものだ。

 映画は2部構成。第1部はドキュメンタリー篇『玉三郎 16Days in 蘇州』。玉三郎の蘇州入りから、稽古の様子、中国でのプロモーション活動、講演会の様子、インタビュー、本番直前のリハーサルまでを45分にまとめている。これを引き継ぐ形で、第2部は舞台篇『牡丹亭』だ。2009年3月13日〜15日に蘇州科学技術文化芸術センターで行われた公演の様子を、1時間36分に再編集してまとめている。1部・2部とも、テレビで何度か玉三郎のドキュメンタリーを手掛けている十河壯吉監督が手掛けている。2本の映画は別々の作品ではなく、全体としてひとつの映画作品。美声の津嘉山正種がドキュメンタリー篇と舞台篇の両方でナレーションを受け持ち、趣向の違う2篇のトーンを揃えている。

 「映画作品」として観るなら、第1部のドキュメンタリーが映画として成立しているのに対し、第2部は舞台上演の記録映像以上の面白さはあまり感じられない。第1部は登場する人たちが取材カメラをあえて無視して行動するなど劇映画にも似た演出が行われ、映像は別録りしたインタビュー音声を乗せて重層的な効果を作りだしてもいる。ここでは別々の時間と空間が、ひとつの映画の中でコラージュされているわけだ。ところが第2部では、舞台の様子を最初から最後まで通しで録画しているだけ。もちろん映像作品としてロングショットやクロースアップを切り替えたりはしているのだが、これはあくまでも舞台中継のようなものであって、映画的な処理は行われていないのだ。

 取材時間や条件の制約もあったのだろうが、1部と2部の対照関係もあまり明確になっていないのは物足りない。舞台作品のメイキングなら、舞台の見どころとなるシーンのリハーサル風景を織り込んで、「なるほど、この演出がこうなるのか!」という様子を見せてほしかった。

5月30日〜7月10日公開予定 東劇
配給:松竹 宣伝:スキップ
2009年|45分+1時間36分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/botantei/index.html
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:牡丹亭
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