いけちゃんとぼく

2009/05/20 角川映画試写室
西原理恵子の同名絵本を実写映画化した感動作。
じんわりと泣けるラブストーリー。by K. Hattori

いけちゃんとぼく  西原理恵子の原作は、フジテレビ系の情報バラエティ番組「ベストハウス123」で「絶対泣ける本」の第1位になっている。僕自身は未読だが、評判はいいのだろう。しかし西原作品の実写映画化は、かつて阪本順治の『ぼくんち』があり、これはまったくダメな映画だった。そんなこともあって、今回の映画もすごく不安だった。監督の大岡俊彦(CMディレクター出身で本作がデビュー作)という人もぜんぜん知らない名前だし、これはきっとダメだろう、ダメに違いないと映画を観る前から何となく身構えていた。ところが当たり前のことだが、映画は観てみないとわからない。この映画は、すごく良かったのだ!

 海に近い田舎町(舞台は明示されないが原作者の故郷高知)で、両親と共に暮らす小学生の男の子・ヨシオが主人公だ。彼にはいけちゃんという、他人には目に見えない親友がいる。学校でイジメられたり、別の子をイジメたり、父親が死んだり、女の子と仲良くなったり、憧れのお姉さんに失恋したり、隣町の子供たちとケンカしたり。そんないろんな出来事を通して少しずつ成長していくヨシオを、いけちゃんはいつも優しく見守っていたのだが……。

 物語の基調はよくある「少年の成長物語」で、さまざまな出会いや事件を通して、少しひ弱なところがある少年が、強くたくましく成長していく様子を描く。映画ファンなら同傾向の映画としては、『スタンド・バイ・ミー』や『マイ・ドッグ・スキップ』を思い出すことができるだろう。どういうわけか、こうした物語の季節は「夏」と決まっている。本作『いけちゃんとぼく』でもこうした物語の定型を守って、季節を初夏から夏休みに設定している。

 しかしこの映画は「少年の成長物語」だと思って観ていると、最後はラブストーリーになるところがユニーク。そしてようやく観客は、「この映画は少年の成長物語ではなく、そもそも最初からラブストーリーだったのだ!」という事実に気づくことになる。そう思って映画を最初から思い返すと、映画の中のあんな場面やこんな場面のひとつひとつが、いちいちラブストーリーとして腑に落ちる。いけちゃんはヨシオが生み出したイマジナリーフレンド(想像上の友だち=もうひとりの自分)ではなく、ヨシオと対峙している他者なのだ。その正体は映画の冒頭でそれとなく明かされているので、意外性はまったくない。しかし「少年の成長物語」という定型化されたドラマによって、観客はすっかりそのことを忘れさせられてしまう。このあたりのさじ加減は絶妙だ。

 ラブストーリーといっても、これは「恋愛」よりも一層純粋な「愛情」の物語。もちろんそれは男女の愛という要素を持っているが、その性格が「母親の子供に対する愛」と重なり合う部分が多いことも劇中で明確に描かれている。人はひとりで大人になるのではない。多くの愛情に包まれながら、子供から大人に成長するのだ。

6月20日公開予定 角川シネマ新宿、109シネマズ川崎
配給:角川映画 宣伝:メゾン
2009年|1時間47分|日本|カラー|ビスタサイズ|ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.ikeboku.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:いけちゃんとぼく
主題歌CD:あしたの空(渡辺美里)
原作:いけちゃんとぼく(西原理恵子)
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