築城せよ!

2009/05/14 京橋テアトル試写室
現代に甦った戦国武将が段ボールで城作りに挑戦。
城作りのシーンはワクワクする。by K. Hattori

築城せよ!  信長・秀吉・家康など多くの天下人を生み出した愛知県。しかし名だたる武将の影には、一国一城の主を目指しながら夢叶わずして散った多くの武将たちがいた。長年の夢だった自分の城を猿投の地に築こうとする途中、部下の裏切りにあって城の完成をみることなく生涯を終えた恩大寺隼人将(おんだいじはやとのすけ)もそんな悲運の武将のひとり。しかし城作りに賭ける彼の執念は、400年以上の時を越えて現代に甦る。今は公園になっている猿投城跡地の古井戸に落ちた役所の職員、建設現場の棟梁、ホームレスの3人に、恩大寺と部下たちの霊が乗り移ったのだ。恩大寺たちは人々を扇動して城を築こうとするが、そのために必要な時間は次の満月までの数日のみ。しかし恩大寺はホームレスの段ボールハウスを見て、この素材なら3日で城が築けると考える。父に武将の霊が乗り移ったことでこの問題に関わらざるを得なくなった棟梁の娘・ナツキは、恩大寺に命じられて城建設の陣頭指揮を執ることになる。だがこうした町民の盛り上がりぶりを、面白く思っていない人物がいた……。

 古波津陽(こはつよう)監督が自作の同名短編映画を、劇場用長編映画にリメイクした作品。古波津監督はこれが長編デビュー作となる。奇想天外な設定とコミカルなタッチでテンポよく展開していく物語だが、戦国武将が現代に甦って段ボールで城を築くというメインの部分は別として、それを支える脇のエピソードにあまり新鮮味が感じられないのが残念。町に工場を誘致するため城址公園を潰してしまいたい町長の思惑と、城跡に天守閣を再現することで観光誘致につながるはずだと考える学者の対立。大工の棟梁である父の跡継ぎとなることに迷いを感じているヒロインが、城作りを通じて大勢の人と一緒にもの作りをする楽しさや喜びに目覚めていく話。「築城せよ!」と号令をかけてもまるで動こうとしない人々を見て、戦国時代の武将が現代の世のリーダーシップについて学んでいく話。まあいろんな話があるのだが、そのどれもが「戦国武将が段ボールで城作り」という中心アイデアほどには面白くないのだ。ユニークなアイデアの映画なのに、サイドエピソードが手垢まみれで古びた印象を与えてしまうのは惜しい。

 この映画にとって最大の面白さは、戦国武将がどうのこうのという物語にあるのではなく、身近な段ボールという素材を使って高さ25メートルの城を実際に築いてしまうというドキュメンタルな部分にある。実際のところ段ボールはかなり頑丈な素材で、高さ25メートルは無理にしても、平屋建ての一戸建てぐらいは造れそうだ。そのあたりをもう少し細かく描いてくれると、この映画はフィクションの形を借りたセミドキュメントとして、さらに面白くなったかもしれない。登場人物の中には大工もいれば、城郭建築の専門家、構造の専門家もいるのに、そうした人たちを生かし切れていないのは残念だ。

6月20日公開予定 新宿ピカデリーほか
配給:東京テアトル 宣伝:ライスタウンカンパニー
2009年|1時間55分|日本|カラー|アメリカンビスタ|ドルビーSR
関連ホームページ:http://aitech.ac.jp/~tikujo/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:築城せよ!
主題歌CD:時の空(多和田えみ)
コミック版:築城せよ!
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