ザ・バンク

堕ちた巨像

2009/03/13 SPE試写室
資本主義の暴走が生み出した銀行というモンスター。
金融業界の裏側を暴く社会派スリラー。by K. Hattori

The International  国際的なメガバンクIBBCの違法行為を捜査するためベルリンを訪れていたNY検事局の調査員が、共同捜査中のインターポール捜査官ルイ・サリンジャーの目の前で殺される。近日中に大口の武器取引を控えているIBBCは、自分たちの目の前にある障害物をなりふり構わず排除しようとしているのだ。だがその証拠はどこにもない。口封じのため世界各地で行われている殺人は、これまでもすべて事故として処理されているのだ。NY検事局の検事補エレノア・ホイットマンは、サリンジャーと共に同僚を手にかけた殺し屋を追う。そこを突破口にして、IBBC中枢の腐敗に切り込む作戦だ。NYで殺し屋を追い詰めたサリンジャーだったが、そこには殺し屋を口封じするためIBBCが雇った別動隊が迫っていた……。

 金融機関の犯罪という本来なら地味な素材を、殺し屋部隊と刑事たちが大銃撃戦を繰り広げるアクション・エンタテインメントに仕立てた社会派スリラー映画。お金や情報のやり取りという絵になりにくそうな素材を、武器の秘密売買や暗殺といういかにもきな臭い素材と結びつけたのがアイデア賞。しかしこれは荒唐無稽な絵空事というわけではなく、劇中に登場する銀行には、世界各地の独裁者やテロリストたちに資金を融通していたBCCIというモデルがある。BCCIは1991年に経営破綻したが、大手の金融機関が寄ってたかってインチキまがいの商売をしていたことは昨年からの金融パニックが立証しているとも言える。大手金融機関を誰も信用しなくなった今は、この映画の内容が一層の真実みを持つ時代なのかもしれない。

 主演のクライヴ・オーウェンは少々野暮ったい部分もあるが、現場刑事上がりの熱血捜査官サリンジャーを好演。様々な圧力に屈することなく、組織の中にありながら孤高の一匹狼として巨悪に挑み続ける剛直でかたくななサリンジャー。それに対して、ナオミ・ワッツ扮するNY検事局の検事補エレノアは、家庭人としての顔も持つ柔らかなキャラクターだ。映画を観ている人間の多くは、サリンジャーよりむしろエレノアに共感を持つだろう。彼女はサリンジャーが踏み込もうとしているメガバンク犯罪の闇の世界と、一般人が属している表の世界の接点にいる人間だ。物語を動かしていく主役はサリンジャーだが、この物語がエンタテインメント作品として成立しているのはエレノアの存在あればこそだろう。

 社会悪に迫ろうとする意欲作だが、理屈っぽくて小難しい映画ではない。NYの観光名所グッゲンハイム美術館での大銃撃戦など、アクション映画としての見どころも多い。クライマックスはオーソン・ウェルズの映画『黒い罠』(1958)を連想させるのだが、トム・ティクヴァ監督も当然それは意識しているだろう。そういえば法の枠を超えて不正を追及しようとする刑事という設定も、『黒い罠』に通じるものがあるかもしれない。

(原題:The International)

4月4日公開予定 丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2009年|1時間57分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|SDDS、ドルビーデジタル、ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/theinternational/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ザ・バンク/墜ちた巨像
サントラCD:ザ・バンク/墜ちた巨像
サントラCD:The International
関連DVD:トム・ティクヴァ監督
関連DVD:クライヴ・オーウェン
関連DVD:ナオミ・ワッツ
関連DVD:アーミン・ミューラー=スタール
関連DVD:ウルリッヒ・トムセン
関連DVD:ブライアン・F・オバーン
ホームページ
ホームページへ