ハイキック・ガール

2009/03/12 京橋テアトル試写室
女子高生空手家が悪党相手に大立ち回り……。
意気込みは買うが話と演出はチョット。by K. Hattori

ハイキック・ガール  映画配給会社ギャガ・コミュニケーションズで『少林サッカー』や『マッハ!』の買付を担当し、退社後は映画『黒帯 kuro-obi』の企画と武術指導で本格的に映画を作る側に回った西冬彦監督が、自ら原作・脚本・監督・プロデューサーを務めたガールズ・アクション映画。「制服姿の女子高生がリアルファイト」という、誰もが考えつきそうでいて実際の映像化は困難なモチーフに真正面からチャレンジしているのがすごい。『黒帯 kuro-obi』で本物の武術家を役者に仕立ててリアルファイトさせた西監督は、今回の映画でももちろん「本物の武術」にこだわり抜く。

 ヒロインの土屋圭を演じるのは、琉球少林流空手道月心会黒帯で様々な大会での優勝経験も持つ武田梨奈。その師匠・松村を演じるのは、『黒帯 kuro-obi』にも主演していた日本空手協会総本部師範の中達也。彼らとからむ敵役にも現役の空手家や格闘技選手が顔を揃えている。本作でも目玉となる見どころのひとつは、ヒロイン役の武田梨奈と、2005年ワールドカップ銅メダリストの小林由佳(芦原会館西山道場所属)による一騎打ち。制服女子高生同士のリアル・キャットファイトでございます。いや〜、これはエエモン見せてもらいましたわ〜。

 劇中で本物の空手が見られるという意味では面白い映画なのだが、映画作品としてはデキの悪い三流品になっているのが残念。まずダメなのは脚本。武術を使ったテロリスト軍団「壊し屋」という敵役の荒唐無稽な設定はともかくとして、その設定の細部がまるで詰められていないので、彼らが単なる「やられ役」の群れになってしまっている。なぜ銃器や武器を使用しない「壊し屋」が必要なのか、なぜヒロインの師匠・松村の命を狙わねばならないのか、なぜ松村はSPの職を離れて空手道場を開くことになったのか、なぜヒロインは師匠に黒帯をもらえないのかなど、物語の根幹に関わる「なぜ?」が多すぎるのだ。ヒロインが「壊し屋」に自ら電話連絡するのも噴飯もの。テロリスト組織の電話番号が、タウンページにでも載ってたというのか?

 肝心のアクションについても見せ方がまるで下手くそ。ひとつひとつの対戦でパンチやキックが本当に当たっていることを詳しく見せたいのはわかるが、そのためにマルチカメラやスローモーションを多用しすぎだ。文字通り目にも見えない速さで繰り出されるパンチやキックの迫力やスピード感を、スロー再生が大幅に削いでしまう。しかもそれを複数のアングルで何度も何度も見せるから、最初の衝撃はどんどん薄れてしまう。直接打撃によるアクションシーンのサンプル集としては機能していても、映画としてはこれじゃ燃えないのだ。

 しかしながらこの映画、武田梨奈というひとりの才能を映画の道に引っ張り込んだという意味では、のちのち高く評価されるかもしれない。西監督本人には、今後も何らかの形で映画を作ってほしいと思う。

5月下旬公開予定 渋谷シアターTSUTAYA、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
配給・宣伝:ヘキサゴン・ピクチャーズ
2009年|1時間21分|日本|カラー|ヴィスタ|DTSステレオ
関連ホームページ:http://www.highkick-girl.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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