スラムドッグ$ミリオネア

2009/02/23 GAGA試写室
人気クイズ番組で高額賞金に手をかけた青年の秘密とは。
アカデミー賞8部門受賞の話題作。by K. Hattori

Slumdog Millionaire  みのもんたの司会で人気のクイズ番組「クイズ$ミリオネア」は、イギリス生まれの世界的な人気テレビ番組だ。2000年から放送されているインドでもこの番組は大人気。だがある日この番組に、とんでもない回答者が現れた。ムンバイのスラムで学校にも通うことなく育った18歳の少年ジャマールが、出される問題に次々正解してついに最高賞金を獲得する最後の1問にまでたどり着いたのだ。これまで番組に出場した医者や弁護士などのインテリたちでも、ここまで到達した者はいない。司会者は不正のにおいを感じて警察に通報したのだが……。

 今年のアカデミー賞で、作品賞・監督賞・脚色賞など、俳優部門を除く主だった賞8つを独占した話題作。監督は『トレインスポッティング』のダニー・ボイルだ。物語は警察の取調室で始まり、尋問されるジャマールの回想(証言)として、彼の生い立ちや逮捕までの経緯が語られるマヅルカ形式。クイズ番組でどんな事態が起きたのかや、ジャマールは不正をしたのかしていないのかという「謎」で観客をグイッと物語の中に引き込んでいくが、やがて映画はジャマールと兄サリームの確執や、運命の少女ラティカとのラブストーリーへと比重を移していくことになる。

 良い映画であることは間違いないが、出演者が無名であることなども含めて全体としては小粒な印象。時系列をバラバラに配置したり、ロケーション撮影で空間的な移動距離を表現するなど工夫はしているが、それでもこの映画から受ける印象は「小粒」というものなのだ。これは製作予算とはまったく無関係なことで、たぶん映画の持ち合わせている世界の規模の問題だ。この映画は大事件を扱わない。主人公の身の回りの小さな出来事を、少しずつ積み重ねていく構成になっている。要するに、主人公の住んでいる世界が狭いのだ。彼はインド各地を移動していくが、その興味や関心は自分の手が届く半径数メートルの範囲に限られているように見える。映画にはインドの途方もない貧富の格差が描かれる。ギャングたちの血なまぐさい抗争も描かれる。しかし主人公はそうした社会の出来事には何も関心を持たない。彼にとっての世界は、自分と、兄と、ラティカだけなのだ。

 しかしこうした世界の小ささは、作り手たちが意図してのことだろう。この映画では、主人公が少しも生きる世界を広げようとしないことが、むしろ彼の美徳であるかのように描かれている。これは主人公ジャマールと兄サリームの対比で明確だ。サリームは自分で積極的に世界を広げていく。クイズ番組で一攫千金の夢をかなえようなんて、サリームは決して考えない。彼は自分の才覚と度胸で、地位と金を手に入れる道を選ぶのだ。だがそうした実力主義は破綻し、最後は夢が勝利する。

 これは現実の戦いに疲れた現代人に夢の楽しさを思い出させる、とびっきりのおとぎ話。この時期この作品がオスカーを受賞したのは必然なのだ。

(原題:Slumdog Millionaire)

4月18日公開予定 TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
2008年|2時間|イギリス|カラー|シネスコ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://slumdog.gyao.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:スラムドッグ$ミリオネア
DVD (Amazon.com):Slumdog Millionaire
サントラCD:スラムドッグ$ミリオネア
サントラCD:Slumdog Millionaire
原作(単行本):ぼくと1ルピーの神様
原作(文庫):ぼくと1ルピーの神様
原作(洋書):Q & A (Vikas Swarup)
原作(洋書):Slumdog Millionaire (Vikas Swarup)
シナリオ:Slumdog Millionaire
関連DVD:ダニー・ボイル監督
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