007/慰めの報酬

2008/12/18 SPE試写室
ダニエル・クレイグ主演の新ボンド・シリーズ第2弾。
快調だがこの路線で続けるのは厳しいかも。by K. Hattori

007/慰めの報酬~オリジナル・サウンドトラック  2006年の『カジノ・ロワイヤル』に続く、ダニエル・クレイグ主演による2本目のジェームズ・ボンド映画。シリーズ全体としては22本目となるが、テイストは1作目のショーン・コネリーから20本目のピアース・ブロスナンまでのものとは大きく異なり、ワイルドでダークでリアリスティックなものになっている。その特徴を一言で表現するなら、「スーパーマンではないジェームズ・ボンド」ということになるだろう。劇中には目を見張るようなハイテク秘密兵器も登場しない。己の肉体と頭脳を武器に、肉体と心の痛みに耐えながら、血みどろになって敵と戦うのがダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドなのだ。

 しかしこの路線、映画2作目にしてもはや限界に達しつつあるのではないだろうか。恋人や家族など愛する人を殺された者たちの「復讐」がテーマとなっている今回の映画では、ボンドもまた大きな心の傷を抱えて敵と向かい合っている。その孤独な戦いぶりは「孤高のヒーロー」に相応しいものではあるが、戦いの痛みに苦しむ我らがジェームズ・ボンドの姿は痛々しすぎて、映画を観ていて気の毒になってくるほどなのだ。

 今回の映画を観ていると、過去のシリーズが作り上げたボンド像の必然性がよくわかる。そもそも巨大な悪の組織が暗躍する過酷な戦いの中に、たったひとりの「生身の人間」が存在することは不自然だからこそ、ボンド・シリーズは主人公を不死身のスーパーマンにしてしまったのだろう。ボンドがむやみやたらと美女たちにモテモテなのも、常にオシャレでダンディなのも、時折見られる皮肉なユーモアも、荒唐無稽な秘密兵器の数々も、巨大な悪の組織と個人が渡り合うという「映画のウソ」を成り立たせるためにはどうしても必要だったのだ。バカバカしい秘密兵器や美女たちは、虚構世界で主人公ボンドをリアルな暴力から守るための防御装置だった。しかしこうした虚飾をすべてはぎ取ってしまったリアル指向のクレイグ・ボンドは、切れば血が出る生身の体で、リアルな暴力に単身立ち向かわなければならない。

 こういうボンドを、全否定する気はない。しかしボンド・シリーズはもう40年も前に、『女王陛下の007』で「生身のジェームズ・ボンドに挑戦して不評を買い、シリアス路線から撤退した過去がある。1969年の観客は、ジェームズ・ボンドに人間らしい感情を求めなかったのだ。それからほぼ40年がたって、再びシリアスなボンドが求められているとしたら面白い現象だが、この路線が定着するかどうかは、次に作られるクレイグ・ボンドの3作目次第だと思う。

 今回の映画の最後で、ボンドは前作の事件に区切りを付けた。苦しい試練を乗り越えて、ボンドは新しい人間へと生まれ変わったはずだ。新生ジェームズ・ボンドの本格的な活躍は、次の作品から始まるだろう。その活躍を今から期待したいと思う。

(原題:Quantum of Solace)

1月24日公開(1月17・18日先行上映) 丸の内ルーブルほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2008年|1時間46分|イギリス、アメリカ|カラー|スコープサイズ|SDDS、ドルビーデジタル、ドルビーSR
関連ホームページ:http://007nagusame.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:007/慰めの報酬
DVD (Amazon.com):Quantum of Solace
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