テレビCMの世界ではかつて「子供と動物には勝てない」という言葉が、表現上の真理として語られていた。どれほど優れたアイデアも、どれほど卓抜な映像表現も、視聴者に与える印象の強さでは子供や動物が出てくる何の変哲もないCMにかなわないという意味だ。この話がもし本当ならどんな広告にも子供と動物を出せばよさそうだが、必ずしもそうはなっていないところを見ると、「子供と動物」がいかなる場合も無敵であるわけではないらしい。しかし評判の「白戸家(ホワイト家)」のCMにしても、一家の父親が白いイヌでなければあれほどの強烈な印象を視聴者に与えるものかどうか……。「子供と動物」の話には、なにがしかの真理があるような気はする。
本作『きつねと私の12か月』は、そんな「子供と動物」が主人公になっているフランス映画だ。監督は『皇帝ペンギン』をはじめ、多くの動物ドキュメンタリーを手掛けているリュック・ジャケ。本作は彼にとって初の長編フィクション映画だが、映画に登場するエピソードの多くは彼自身が子供時代に体験した実際の出来事がモデルになっているのだという。ただし映画では主人公を「少年」から「少女」に変更している。これがどんな理由によるものなのかはわからないが、主人公を少女にしたことで、本作は宮崎駿の代表作『となりのトトロ』の実写版のような心温まるファンタジックな物語に仕上がった。
『トトロ』は都会からやって来た少女たちが森の精霊に出会う物語だが、本作のキツネも主人公の少女に森の不思議を伝える自然界からのメッセンジャーのような役割だ。学校から帰宅する途中で1匹のキツネに出会った少女リラは、このキツネに導かれるようにして森の奥へ奥へと足を踏み入れていく。そこで出会った美しい風景。恐ろしい体験。それらはすべて、森の妖精のようなキツネからのプレゼント。リラはキツネにテトゥという名前を付ける。ふたりの関係はより親密なものになり、テトゥは森の奥から人里に近いところまで山を下りてくる。リラはテトゥにとっておきのプレゼントをしようと考えるのだが……。
『トトロ』の魅力のひとつは劇中で見事に再現されている昭和30年代の田園風景だが、『きつねと私の12か月』で再現されているのはジャケ監督が子供の頃に過ごした30年前のフランス山間部の姿だ。監督は子供の頃からひとりで森の中を歩き回り、季節ごとに刻々と変化していく森の風景や動物たちの姿を見つめ続けていたのだという。映画の中でリラが見る森の姿はそのまま、子供時代のジャケ監督が見た森の姿でもある。我々は『トトロ』に描かれる昭和30年代(?)の田園風景などまったく自分の目では見たことがないくせに、『トトロ』の中の風景に懐かしさを感じる。『きつねと私の12か月』も同じだ。『トトロ』が好きな人は、間違いなくこの映画も好きになれると思う。
(原題:Le Renard et l'enfant)