サーチャーズ2.0

2008/12/12 映画美学校第1試写室
暴君脚本家に復讐するため旅に出たB級俳優ふたりの珍道中。
純な映画愛の身も蓋もない末路に苦笑。by K. Hattori

 子供の頃から端役として様々なB級映画に出演してきたメル・トレスだが、中年オヤジになった今では俳優の仕事も開店休業状態。日雇い仕事で何とか食ってはいるものの、持ち前の反抗心が首をもたげて仕事にあぶれる日も多いありさまだ。そんなメルが偶然再会したのは、同じB級映画俳優仲間のフレッド・フレッチャー。彼らは一緒に見はじめたテレビで、かつて仕事を共にしたこともある脚本家フリッツ・フロビシャーが数日後にサイン会を行う予定であることを知る。

 フロビシャーの名は二人にとって、心に突き刺さった大きなトゲのようなもの。当時大物脚本家だった彼は撮影現場を我が物顔で私物化し、あろうことか撮影のために集められた子役たちにムチを振るう残忍な素顔を見せたのだ。あの悪夢のような出来事が、当時子役だったメルとフリッツをどれだけ傷つけたことか! 「復讐だ!」とふたりは決意。メルは娘デライラに偽の口実を作って車を借りると、サイン会が行われるという「西部劇の聖地」モニュメント・バレーを目指す。

 1980年代に撮った『レポマン』や『シド・アンド・ナンシー』などの作品で、同時代の映画ファンからカルト的な評価を得ているアレックス・コックスの新作。セエグゼクティブ・プロデューサーは「B級映画の帝王」としてこれまたカルト的な評価を受けているロジャー・コーマン御大。主演はコックス作品常連のデル・ザモラとエド・パンシューロ、サイ・リチャードソン。カルト監督とB級映画の帝王が手を組んで、昔なじみの俳優たちとどんな映画を作るかと思いきや、中身はやけにあっさりとした男女3人組のロードムービー。ただしそこには、映画に対する「愛」がどっさり詰め込まれている。

 『ニューシネマ・パラダイス』をはじめ「映画愛」を描く映画は山のようにあるが、この映画ほどその「愛」の実態を克明に描いた作品はないかもしれない。何よりも先ず史上に流通する「商品」であることを求められる映画に対する「愛」は、どうやったってきれい事だけでは済まされないのだ。そこでは「愛」が金銭で売り買いされる。映画ファンや作り手たちの「無償の愛」に値札が付けられ、市場に流通させられるのだ。元手は無償(タダ)なんだから、こんなにオイシイ儲け話はない。しかしいかに他者に食い物にされても、「愛とは決して後悔しないもの」(『ある愛の詩』)なのだ。しかも「愛」を食い物にする側もまた、彼らなりの「愛」を映画に求めていたりするのだ。

 衰退していくB級映画や職にあぶれたB級映画俳優などを通して、この映画は輝かしい映画の時代がもはや過去のものでしかないことを宣言する。しかしその「輝かしい映画の時代」に既に、映画は食い荒らされていたのだ。フリッツ・フロビシャーはその傷跡を埋めようと、現場でひとり奮闘した男であったのかもしれない。だが彼は結局、その「愛」ゆえに敗れ去る運命なのだ。

(原題:Searchers 2.0)

1月10日公開 渋谷アップリンクX、吉祥寺バウスシアター、横浜シネマジャック&ベティほか
配給:アップリンク
2007年|1時間36分|アメリカ|カラー|1:1.78
関連ホームページ:http://www.uplink.co.jp/searchers/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:サーチャーズ 2.0
関連DVD:捜索者(1956)
関連DVD:アレックス・コックス監督
関連DVD:デル・ザモラ
関連DVD:エド・パンシューロ
関連DVD:ジャクリン・ジョネット
関連DVD:サイ・リチャードソン
関連DVD:ザン・マクラーノン
ホームページ
ホームページへ