魔法遣いに大切なこと

2008/11/27 シネマート銀座
魔法が日常化している別世界が舞台の青春ファンタジー。
透明感はあるが、薄味でもある。by K. Hattori

愛する人  数多くの脚本家を輩出した老舗の映画脚本コンクール城戸賞に応募するため書かれた、山田典枝のオリジナルシナリオ「魔法遣いに大切なこと」。残念ながらこの作品は受賞の選に漏れたが、アイデアのユニークさに注目されて2002年にコミック作品の原作として日の目を見ることになる。その後はコミック版の続編やノベライズを経て、2007年にはいよいよ劇映画の製作が決定。アニメも作られるなど、一気に多メディアに展開していくことになった。城戸賞を受賞しても映画化されない作品が圧倒的に多い中、紆余曲折を経て当初想定していた劇場用実写映画にまでたどり着いたのは、作品の魅力もさることながらきわめて幸運なことだったと思う。

 僕は今回の映画でこの作品を初めて知ったのだが、映画を観る限り物語のベーシックな設定自体はじつに古典的なものだと感じた。魔法使いの少女が人間界で修行し、一人前の魔法使いを目指すという筋立ては「魔法使いサリー」と変わらない。日常の中に魔法使いの存在が常態化し、魔女たちが魔法の力を使って人間界で生活しているという設定なら『魔女の宅急便』だ。『魔法遣いに大切なこと』の基本的な設定でユニークなのは、そうした子供向け「魔法少女もの」の設定を借りつつ、それを我々の日常と直接地続きであるかのような、現実味のあるリアルな世界観に着地させていることだ。

 全国の魔法遣いたちは「魔法士」という国家資格を持たなければ、勝手に魔法を使うことができない。魔法遣いの血を引き魔法の能力を持つ子供たちは、思春期を迎える頃に東京の魔法局に集められ、10日間の座学研修と、先輩魔法士宅に住み込みでのOJT研修を受けなければならない。魔法は無制限にどんな超自然現象でも起こせるわけではなく、無から有を生み出したり、死んだ人間を蘇らせるといったことは不可能だ。魔法遣いといえども、スーパーマンではないのだ。

 こうした設定自体は、決定的な新鮮味に欠けるとはいえ面白いものだと思う。でも僕は今回、ひとりの少女の成長物語や初恋のドラマとして、こうした背景設定が必要だったとは思えない。魔法という物語の設定は、「大きな秘密を抱えた美少女と不良少年の間に芽生えた淡い恋」というメロドラマをカモフラージュするためのフレーバーに過ぎないように思えてしまう。ひとりの女の子がいて、その女の子がひとりの男の子と恋をして、彼はちょっと不良っぽいけどじつはとても繊細で傷つきやすい心の持ち主で、ふたりは束の間の恋に落ちて、でも彼女にはもう残された時間があまりなくて……なんて、40年ぐらい前の少女マンガじゃないか。

 この映画はそんな「古くさい少女マンガ」を、「それでいいのだ」と開き直って作っている。主演の山下リオは少女マンガから抜け出してきたような色白の美少女で、相手役の岡田将生をはじめ登場人物全員が少女マンガチック。これはこれで一本筋が通ってる。

12月20日公開予定 シネマート新宿、シネマート六本木
配給:日活 宣伝協力:ライスタウンカンパニー
2008年|1時間40分|日本|カラー|ビスタサイズ|DTSステレオ
関連ホームページ:http://www.maho-movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:魔法遣いに大切なこと
主題歌CD:愛する人(THYME)
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