傑作『ザ・ミッション/非情の掟』の後日譚のような、ジョニー・トー監督の香港ノワール映画。ボスを裏切って逃亡した若いやくざを巡って、かつての仲間たち4人がマカオに集結する。2人はボスから彼を殺すよう命じられているヒットマンとして。他の2人は彼を守るボディガードとして。子供の頃から同じ釜の飯を食って育った5人の男たちが、敵と味方に分かれて殺し合うのだ。だがここから物語は二転三転。香港ギャングのボスと、マカオのギャングのボス、金塊の輸送車襲撃といったオマケも付いて、銃撃戦に次ぐ銃撃戦が繰り返されることになる。
原題は『放・逐』で、英語題は『EXILED』。「追放」という意味だ。これに「絆」という文字を添えた日本題は、巧みにこの映画のテーマを言い表している。故郷を離れ、組織を追われた男たちに残されたのは、仲間同士の「絆」だけだった。彼らはそのために、笑って命を投げ出す。映画序盤の設定は『ザ・ミッション/非情の掟』だが、映画の中盤から終盤にかけての流れは、サム・ペキンパーの『ワイルドバンチ』めいてくる。共通点を上げればきりがない。これはジョニー・トー版の『ワイルドバンチ』なのだ。
撮影は脚本なしで進められたそうで、作っている側も出演している側も、物語の先行きがまったくわからないまま撮影をしていたという。そんな監督の言い分がどの程度実態を反映しているのかは疑問だが、がっちりした骨組みを持たない物語の構成はかなりゆるく、それが出たとこ勝負であてもなく漂いさまよう主人公たちの行動にうまくマッチしているようにも思う。コイントスで行き先を決める偶然の面白さ。コインの出た目に自分たちの運命を託すしかない漂流者の哀れさと、組織の掟にがんじがらめになっていた彼らが、つかの間得ることになる自由の喜び。だがその自由を得るために支払う代償はあまりにも重い。
漂流する男たちの行き当たりばったりな道行きは、時としてきわめてシビアでスリリングなものとなり、時にはユーモラスなものとなる。しかしあまりにも行き当たりばったりすぎて、緻密に組み立てられた『ザ・ミッション/非情の掟』や『エレクション』といった映画が持つ、ヒリヒリとした緊張感はあまり味わえない。物凄いシーンも随所にあって手に汗握るのだが、映画を観終えた印象は結構あっさりしているのだ。
結局この映画、僕は登場人物たちにあまり感情移入できなかったのかもしれない。社会からはみ出してアウトローとして生きる男たちは、やくざ社会からもはみ出して行き場を失う。彼らは映画に登場したその瞬間から、既に自分たちにはたどり着くべき目的地など失われていることを悟っている。彼らは画面に現れたとき既に、自分たちの死を意識しているのだ。だからこそ、互いに銃を向け合った後で、笑いながら飯を食うこともできるのだ。彼らは既に死人も同然。しかし死人に感情移入はできない。
(原題:放・逐 EXILED)