夢のまにまに

2008/09/17 松竹試写室
美術監督・木村威夫の長編監督デビュー作。
90歳新人の瑞々しい感覚。by K. Hattori

夢のまにまに メイキング  ここ数年のうちに『夢幻彷徨』『OLD SALMON 海をみつめて過ぎた時間』『馬頭琴夜想曲』などの短編を次々に発表した木村威夫監督が、いよいよ長編映画を撮った。僕はこのうち『夢幻彷徨』と『馬頭琴夜想曲』を観ているが、どちらも実験的な映像に目がくらむ摩訶不思議な世界で、正直言って「これは短篇でよかった。長編だと身が持たない」と思った。今回の『夢のまにまに』は上映時間が1時間46分。これで短篇同様の実験映画をやられてはたまらんなあと思っていたのだが、今回は身構えていたこちらが拍子抜けするような、いい意味で普通の映画になっていた。

 もちろん映像表現などに短篇作品にも通じる木村監督らしさはあるが、筋立てはわりときちんとしている。木村監督の分身と思われる映画専門学校の学院長と妻の生活、専門学校に通いながら精神を病んで学校を中退してしまう青年との文通、主人公が若い頃に淡い交流を持った酒場の女主人との思い出、その女主人にそっくりな女性画家との交流などが、主人公の一人称の世界で縒り合わされていく。互いにまったく無関係に見えるエピソードもあるが、それが主人公ひとりを接着剤にして見事にひとつにつながっていくのだ。基調となるテーマは「死」だろう。だからこれは、決して明るく楽しい映画ではない。むしろ重い映画だ。

 映画には3種類の死が描かれる。ひとつは映画冒頭からこの作品の大きなモチーフとなる「戦争」での死だ。空襲で九死に一生を得た経験。原爆。戦後の闇市と傷痍軍人。原爆で死んだ主人公の妻の姉。婚約者だったらしい青年将校。特攻隊として散った青年たち。戦火に消えた戦没画学生たち。ふたつめは、主人公が直面する「老い」による死。これを常に彼に意識させ続けるのが、家で共に暮らす認知症の妻であり、自分自身の老いた肉体であり、そうした老いの象徴として街路樹のコブがある。三つ目は主人公と交流を持つ青年を通して描かれる「若者の死」だ。精神を病んだ青年に襲いかかる、自殺への衝動。それは青年を蝕み、飲み込んでいく。この死は「若者の死」という共通項で、戦争中の若者たちの死と響き合い、ひとつに結びつけられる。こうして「死」を通して物語全体は循環し、「死」を通して物語は調和したひとつの世界を作り上げる。

 死は誰にでも平等に訪れる。例外はない。そういう意味で、死は誰にとっても自然なもの。しかし人間はその死を、理不尽なものとして忌避しようとする。死によって人間のすべてが、終わってしまうように感じるからだ。しかしこの映画では、その死が人間の創作活動によって乗り越えられていく。それは画家の描く幻想的な銅版画であり、主人公の妻が作り出すフォトコラージュであり、精神を病んだ青年が撮り続ける写真なのだ。創作という営みを通じて、人は時空を超えて新たに生まれ変わる。宮沢りえが演じるふたりの女が、それを象徴しているのかもしれない。

10月18日公開予定 岩波ホール
配給:パル企画 宣伝:ジョリー・ロジャー
2008年|1時間46分|日本|カラー|ビスタサイズ
関連ホームページ:http://www.yumemani.com/
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