1962年にマーベル・コミックから誕生し、77年からはテレビシリーズも製作された「超人ハルク」の実写映画版。03年にはエリック・バナとジェニファー・コネリー主演の映画がアン・リー監督の手で作られているが、今回はスタッフとキャストを一新して設定もストーリーもリセットしている。これはアメコミ映画ではよくあることだが、たった5年で前の映画を捨てるというのは大したもの。今回の映画を観るとわかるのだが、製作側は今回の『ハルク』を『スパイダーマン』や『X−メン』などに続く強力なシリーズ作品に育てていきたいようだ。劇中では既に続編への布石が打たれ、同じマーベル・コミックから同時期に映画化された『アイアンマン』との合流も示唆されている。
今回の映画で緑色の巨人ハルクに変身する科学者ブルース・バナーを演じているのは、役作りへの熱意と演技力に定評があるエドワード・ノートン。その恋人ベティ・ロスを演じるのはリヴ・タイラー。映画はこのふたりのラブストーリーと、ハルクをライバル視する軍人エミル・ブロンスキーの戦いというふたつのエピソードが同時進行していく。
ティム・ロスがブロンスキーを憎々しげに演じているが、この役はもう少し体の大きな俳優が演じた方が、変身前のブルース・バナーとの対比が出て面白かったと思う。軍人として強さを求め続けた屈強な男が、自分よりずっと身体の小さいインテリ男に敗北すれば、その屈辱感がその後の彼の行動を支える強力な動機になっただろう。これは学者として平和で安定した暮らしを望みながら、自分の意思とは無関係にスーパーパワーを押しつけられてしまった男と、戦いの中に自分の生きる道を選び、人並み外れたスーパーパワーを求めようとする男の対比だ。自らの身体に刻み込まれた力を封じ込めようとする男と、自らの身体に巨大な身体を迎え入れ、それを思うがままに解放させようとする男の対決だ。こうした性格と方向性の違うスーパーパワー同士の衝突にこそ、この映画のテーマと深く関わっていくと思うのだが、映画ではそのあたりの対立がいまひとつ鮮明になっていなかったのが残念。
エドワード・ノートンは事故で変身能力を授かってしまった青年科学者の苦悩を繊細に演じていて、変身前のブルースと変身後のハルクの対比にメリハリがきいている。しかしノートンが生々しく人間的な苦悩を演じれば演じるほど、変身後のハルクがどうしようもなくコンピュータ仕掛けの操り人形にしか見えないというのも事実なのだ。CGで作られたハルクがいかに表情豊かでも、それはやはりマンガでしかない。ハルクの表情が鮮明に見えなかった映画前半はそれなりにワクワクしながら観ていたのだが、ハルクの顔がはっきりと画面に映し出される後半以降、僕の気持ちはちょっと映画から離れてしまった。CGのハルクは、エドワード・ノートンほど表情に憂いがないのだ。
(原題:The Incredible Hulk)
DVD:インクレディブル・ハルク
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