881

歌え!パパイヤ

2008/07/16 シネマート銀座試写室
スターを目指す普通の女の子2人組が人気歌手に!
バカバカしさに呆れながら最後は感涙。by K. Hattori

 シンガポールの普通の女の子2人組が、シンガポールの夏を彩る風物詩「ゲータイ(歌台)」の人気歌手目指して奮闘する、歌あり踊りありのバックステージ・ミュージカル。主人公たちが結成する歌手ユニットの名前がパパイヤ・シスターズで、ひとりはリトル・パパイヤ、もうひとりはビッグ・パパイヤというわかりやすいネーミング。彼女たちがゲータイの女神の導きで人気歌手に成長していくと、人気を脅かされることに危機感を感じたドリアン・シスターズが露骨な妨害を仕掛けてくる。パパイヤとドリアンの対立は一触即発の緊張状態。ついには互いの歌手生命を賭けて、負けた方が引退するというステージバトルで雌雄を決することとなるのだが……。

 無名の新人歌手が人気歌手へと成功の階段を駆け上がっていく定番のバックステージものだが、舞台になっている「ゲータイ」というものに馴染みがなかったので、今回映画で初めてそれを目にして驚いてしまった。シンガポールでは古くから毎年夏になると祖先の霊を迎えて歌や踊りで歓待する行事が行われていて、それがどんどんショーアップされたのが現在のゲータイだという。行事の主旨からすると、これは日本の盆踊りと同じだ。ゲータイの人気歌手というのは、さしずめ夏になると各地の盆踊りから引っ張りだこになる河内音頭の音頭取りみたいなものだろうか。ぎんぎらぎんにデコラティブなステージパフォーマンスは、映画用の演出があるとしても見応えたっぷり。映画は本作の脚本執筆中に亡くなった国民的なゲータイ歌手チェン・ジン・ランに献げられ、劇中には現役のゲータイ歌手たちも数多く出演している。

 監督・脚本のロイストン・タンは本作が3本目の長編映画。定番の骨太ドラマに荒唐無稽で派手なエピソードを散りばめ、きらびやかな映像処理で見せていくスタイルは、『下妻物語』や『嫌われ松子の一生』の中島哲也監督に似ている。ただしこの映画に関して言えば、監督が意識したのはジャン=ピエール・ジュネ監督の『アメリ』に違いない。男性のナレーターが物語全体の語り手になっていることや、誰もが知る有名人の死が物語に取り込まれている点、映像処理や演出などにその影響が見える。ただし影響を受けている映画はそれだけではなく、さまざまな映画の面白いところがごった煮のように寄せ集められている印象だ。ここには悲劇と喜劇、メロドラマと笑劇、リアルな人間ドラマとマンガが隣り合っている。最初はそこにチグハグしたものを感じもするが、最後はあらゆる映画ジャンルのあらゆる種類の感動が重層的に押し寄せてくる。いかにもベタな浪花節とわかっているはずなのに、最後は涙が出てしまうのだ。

 この映画はド派手なコミックショーのように見えて、じつは「死」というテーマを扱っている。ゲータイは死者の霊を迎え入れる行事。映画を見る人は、最後にその意味を噛みしめるだろう。

(原題:881)

8月9日公開予定 ユーロスペース
配給:マジックアワー、チャンネルアジア
2007年|1時間49分|シンガポール|カラー|ヴィスタ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.881movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:881 踊れ!パパイヤ
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