モンゴル

2008/04/19 楽天地シネマズ錦糸町(スクリーン4)
セルゲイ・ボドロフ監督が浅野忠信主演で描くチンギス・ハーン伝。
アクションシーンの迫力には息をのむ。by K. Hattori

Mongol: The Early Years of Genghis Khan  『コーカサスの虜』や『ベアーズ・キス』のセルゲイ・ボドロフ監督が、浅野忠信主演でチンギス・ハーンの青年時代を描いた映画。もっともこの映画で浅野忠信が演じているのは、チンギス・ハーンと呼ばれる前のテムジン時代に限定されている。敵対する部族に父を殺された幼いテムジンは、何度も捕らえられては逃げ出しつつ力を蓄え、草原の覇者になる力と技量を身に着けていくのだ。何度か描かれる戦闘シーンは、一対一の剣劇より、多数と多数がぶつかり合う集団戦闘が中心だ。騎馬民族であるモンゴル人たちの戦いは、すぐさま人馬が入り乱れての乱戦になる。結果は血糊と土埃が画面のそこかしこに飛び散る、凄惨で迫力満点の戦闘シーンのできあがりだ。

 チンギス・ハーンはモンゴルの草原で生まれ育った野性味あふれる男というイメージがあり、それはこれまで作られた数多くの映画やドラマでも同じだと思う。腕っ節と度胸で世界征服を成し遂げた男の中の男、世界を震撼とさせた蛮族の王、それがチンギス・ハーンなのだ。しかし浅野忠信のテムジンは、それとは少し様子が違う。蛮族の王と呼ぶにしては、彼は繊細すぎるように見えるのだ。これは映画のねらいでもある。物語が捕らえられたテムジンから始まり、目の前で親を殺されたテムジン、敵にすべてを奪われるテムジン、捕虜になって殺されかけるテムジン、妻を奪われ自らも瀕死の重傷を負うテムジン、奴隷として売られるテムジンなどを描く。蛮族の王者としての風格なら、テムジンよりもライバルのジャムカや狡猾な宿敵タルグタイの方がよほど格上だ。この映画のテムジンは、勇猛果敢なモンゴルの王者ではない。むしろこの映画の中で、誰よりも弱い存在なのだ。

 物語の柱になるのは、少年時代のテムジンとアンダ(盟友)の誓いを交わしたジャムカとのライバル関係だ。ジャムカはすべてを失った少年テムジンの命を助け、青年テムジンが敵に奪われた妻を奪回するのにも力を貸した、頼りになる兄貴分のような存在。しかし力を誇示して周囲を従わせるジャムカの生き方と、周囲の者たちに公平に接することで人望を集めるテムジンの間には溝が深まっていく。馬を盗もうとしたジャムカの弟をテムジンの部下が射殺したことで、強い絆で結ばれたふたりの関係は破綻し敵対関係になる。ジャムカを演じたのは中国人俳優のスン・ホンレイだが、自らの腕のみを頼りに生きる蛮族の王を魅力たっぷりに演じていて気持ちがいいくらいだ。

 映画のもうひとつの柱は、テムジンと妻ボルテの関係だ。幼い頃にはじめて出会ったテムジンとの結婚を自らの意志で決め、結婚後は敵の襲撃から夫を逃すために自ら敵の手に落ち、ある時は夫を助けるため旅商人に身をゆだねる。テムジン以上に強くたくましいこの女性の存在なしに、テムジンの覇道はあり得なかっただろうと思わせる。演じているクーラン・チュランの真っ直ぐな視線が素晴らしい。

(原題:Mongol)

4月5日公開 丸の内TOEI1、新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:ティ・ジョイ、東映
2007年|2時間5分|ドイツ、カザフスタン、ロシア、モンゴル|カラー|1:2.35|サウンド
関連ホームページ:http://mongol-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:モンゴル
DVD (Amazon.com):Mongol: The Early Years of Genghis Khan
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