軍鶏 Shamo

2008/03/05 松竹試写室
親殺しの少年が少年院で空手に出会って大変身。
人気コミックを実写映画化。by K. Hattori

 原作・橋本以蔵、作画・たなか亜希夫のコンビによる、同名人気コミックの実写映画版。原作者の橋本以蔵は脚本を手掛けた他、エグゼクティブプロデューサーにも名を連ねている。日本が舞台の物語を香港のスタッフとキャストを中心に映画化するという『頭文字(イニシャル)D』と同じスタイルの作品で、主人公の成嶋亮を演じているのは『インファナル・アフェア』でトニー・レオンの青年時代を演じたショーン・ユー。ライバルの青年空手家・菅原直人を格闘家の魔裟斗が演じているのがキャスティングの目玉だろうか。

 裕福な家庭に生まれ育ちながら、確たる理由もなく突然両親を殺した16歳の少年・成嶋亮。少年院で過酷なリンチから逃れるため身に着けた空手を武器に、彼は世界規模の格闘技イベント「リーサル・ファイト」に挑戦する……という話。原作でかなりのボリュームになっているドラマを1本の映画にまとめているため、主人公をリーサル・ファイトに出場させるまでの段取りやライバル菅原直人との確執など、細かな部分が吹き飛んでしまった。キャラクターの産みの親である原作者には未練があったのか、物語のそこかしこに登場人物の痕跡だけは残っているので、原作のファンはそんなところを楽しむこともできるだろう。

 物語から枝葉のエピソードを削ぎ取った結果、残されたのは「親殺しの汚名を浴びせられる主人公が行方不明の妹を捜す」という物語になった。親殺しにしろ妹捜しにしろ、神話や伝説に登場するような普遍的モチーフ。こうした「神話性」は、主人公の亮が少年院に入ったシーンで、キリストの姿を摸してからかわれる場面からも見て取れる。しかしこれが、どうも映画から浮いているようにも思う。こうした要素は原作の段階にも存在したのだが、原作の読者が楽しんでいたのはリアルな格闘技の描写であって、主人公と家族にまつわる様々な話は二の次三の次だったようにしか思えない。

 原作の魅力は主人公・成嶋亮の凶暴さや狂気にあったのだが、映画版ではそれを「親殺しの真相」で和らげてしまう。挑発するため誘拐してきた菅原の恋人もなぁ……。総じて映画版の主人公は、原作に比べるとずっとマイルド。彼の凶暴さと狂気が「仮面」でしかないことが観客に伝わってしまい、原作の成嶋亮が発していた禍々しいパワーは半減した。

 しかしこの映画はアクションシーンも豊富で、「ドラマなんてどうでもいいからアクションを見せろ!」という原作ファンにも満足できるのではないだろうか。こういうアクションシーンを撮らせると、香港映画は上手い。殺陣とカメラワークと編集が手を取り合って、俳優が実際にリングの上で戦っているように見える。日本映画には残念ながらこのノウハウがないので、今回の映画は香港で作って正解だったかもしれない。魔裟斗が空手選手には見えないなど問題もあるのだが、それもショーン・ユーの熱演に免じて許すべきか。

(原題:軍鶏)

5月3日公開予定 新宿トーア、シアター・イメージフォーラム
配給:アートポート
2007年|1時間45分|香港|カラー|ビスタ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.shamo-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:軍鶏 Shamo
メイキングDVD:メイキング オブ 「軍鶏 Shamo」(仮)
原作:軍鶏(橋本以蔵)
関連DVD:ソイ・チェン監督
関連DVD:ショーン・ユー
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