ラフマニノフ

ある愛の調べ

2008/02/06 GAGA試写室
作曲家ラフマニノフの生涯を創作を交えて描く伝記映画。
演奏シーンに物足りなさも。by K. Hattori

 20世紀初頭に革命を逃れてアメリカに亡命したロシアの作曲家、セルゲイ・ラフマニノフの伝記映画。ただしその内容は、必ずしも史実に即してはいない。もっともそんなことは、音楽家の伝記映画では常識と言えるだろう。『アメリカ交響楽』や『夜も昼も』はガーシュインやコールポーターの実人生とほとんど無関係な伝記映画だったし、『未完成交響楽』はシューベルトと彼の曲を引き合いに出した悲恋物語として仕上げられ、『アマデウス』はモーツァルトやサリエリの関係を正確に写してはいない。音楽家の伝記映画というものは、作曲家の生涯と称するドラマの中に有名な楽曲がふんだんに散りばめられていればそれでいいのだ。この映画には「ピアノ協奏曲第2番」をはじめとするラフマニノフの有名な楽曲がたっぷり盛り込まれており、それだけで「作曲家の伝記映画」としてはまず合格ラインだろう。

 映画はラフマニノフがアメリカでピアノ演奏家として華々しくデビューするところから始まり、アメリカでの生活と、ロシア時代の思い出が同時進行していく構成になっている。アメリカでピアノ演奏家として大成功を収めながら、演奏活動で各地を飛び回る暮らしが続いて作曲活動が思うように進まなくなるというジレンマ。アメリカ流の実利主義に馴染めず、経済的な安定を求める家族とも折り合いが悪くなっていく苦悩。そこに回想シーンとして、若き日の恋、恩師との決別、作曲家としての挫折、妻との出会い、革命による祖国からの脱出などが挿入されていく。

 現在と過去が同時進行してひとつの大きなドラマを作るという点で、これは『ゴッドファーザー PART II』と同じような構成。しかしこの映画は、それよりずっとゴチャゴチャした印象だ。『ゴッドファーザー PART II』は現在のパートをアル・パチーノが演じ、過去のパートをロバート・デ・ニーロが演じることで時代の移ろいが明確に区分されていたわけだが、本作『ラフマニノフ/ある愛の調べ』は登場する俳優が現在も過去も同じ。しかし原因はそれだけではないはずだ。この映画ではラフマニノフの人生を「ロシア時代」と「アメリカ時代」のふたつに区分すると同時に、親しい3人の女性との関係でラフマニノフの人生を3等分しようとしている。どちらか一方の方法に統一してしまえば良かったのに、欲張って二通りの区分を持ち出したことから構成が混乱しているのだ。

 3人の女性は類型化されていて、ひとりめのアンナは娼婦、ふたりめのマリアンナは処女、三人目のナターシャは母親だ。ラフマニノフは娼婦に翻弄され、処女に恐れをなして逃げ出し、母親のもとで安らぎを得る。母親は「母なる祖国」に通じるというわけだろう。映画の構成としては女性の存在に合わせて「アンナ編」「マリアンナ編」「ナターシャ編」と三部構成にした方が、内容的にもスッキリまとまったと思う。

(原題:Lilacs)

GW公開予定 Bunkamuraル・シネマ、銀座テアトルシネマ
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
2007年|1時間36分|ロシア|カラー|シネスコ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://rachmaninoff.gyao.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ラフマニノフ/ある愛の調べ
関連DVD:パーヴェル・ルンギン監督
関連書籍・楽譜:ラフマニノフ関連
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関連CD:ラフマニノフ自作自演集(1) (2) (3)
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