フランス南西部の都市ビアリーツのリゾートホテルでウェイターの仕事をしているジャンは、自分を金持ちの宿泊客だと思い込んだ若くて美しい女性客イレーヌと一夜を共にする。勘違いが生み出した夢のような一夜。しかしその翌年、再びイレーヌはホテルを訪れた。同じように金持ちの客を装い、イレーヌを誘うことに成功したジャン。しかし今度の夢は長くは続かなかった。イレーヌは自分の勘違いに気づき、しかもジャンとの関係が婚約者にばれてホテルから放り出されてしまう。ジャンもホテルをクビになる。イレーヌは次のカモを探すためニースに移動。ジャンもその後を追うのだが……。
ジャンが働いていたホテルのあるビアリーツと、その後の主要舞台となるニースの位置関係がよくわからなかったのだが、地図で調べるとビアリーツはスペインとの国境に近いフランス南西の端にある町で、ニースはイタリア国境に近いフランス南東の端にある町だ。移動距離は800キロ以上。東京から広島(あるいは函館)ぐらいまでの距離がある。このぐらいの距離が最初からピンと来れば、イレーヌがどれだけの決意でニースにやって来たのか、ジャンがどれほどの気持ちで彼女を追いかけたのかもよくわかろうというもの。残念ながら僕はニースの位置は何となく「南仏だなぁ」と見当は付いたんだけど、ビアリーツの場所がよくわからなかった。映画の本筋とはあまり関係ないことだけど、ちょっと残念。フランス人や旅行好きの人には常識なんでしょうけどね。
貧しい男と女が金持ちを装って知り合って……という展開は、O・ヘンリーやデイモン・ラニアンの短編小説にありそうな定番の状況設定。こうした設定の場合、最後は互いに貧しいことがわかってメデタシメデタシとなるのだが、この映画ではそうはならないところが現代流。今の世の中、貧しさの中で健気に生きることはまったく美徳とは見なされないのだ。イレーヌはしがないホテルの従業員だったジャンを非難し、ジャンもそんな自分の境遇を彼女には釣り合わないものだと考える。ジャンはなけなしの金をはたいて彼女に貢ぐのだが、貯金がすべて底をつけば彼女とはサヨウナラ。男の純情に免じて、彼女が心を動かされたりすることはない。少なくとも彼女は、そうしたことに心を動かされるべきではないと考えているし、そのことについてジャンも彼女を非難したり批判したりすることはない。この映画の中では、イレーヌのような生き方が決して否定されていない。それどころかニースではジャンまでが、金持ちの未亡人に見初められて慣れないジゴロ稼業に手を出すことになる。
映画にはイレーヌと同じような「仕事」をしている別の女性が登場するし、かつてのジャンと同じようにホテルの裏方として黙々と働く人々の様子が丁寧に描写されている。リゾート地のホテルにある、一般宿泊客が知らない別の顔。それがこの映画のもうひとつのテーマかもしれない。
(原題:Hors de prix)
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