トリック

2007/10/24 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(ART SCREEN)
駅のホームで父(?)を見つけた少年と姉の大冒険。
結局は話がちょっとわかりにくいのだ。by K. Hattori

 いつも遊びに行く駅のホームで、列車待ちをしている中年の男。最近よく見かける彼は、僕のお父さんではないだろうか? そう考えた少年が、姉と一緒にこの「お父さん」と母を再会させようとあの手この手で仕掛けを考えるというお話。ポーランドの今が描かれているという面白味と、細かなエピソードが持つユーモアは大いに買うのだが、話自体がよくわからない。

 一番のわからなさは、駅の中年男が本当に少年の父なのか否かという点にある。映画を最後まで観れば、その答えはわかるようになっているのだが、観客が観たいのはそんな種明かしではない。「あの男の人は僕のお父さんだ!」という少年の強い思い込みが、周囲の人たちを否応なしに巻き込んでいく、その過程が見たいのだ。少年の強い思いによって、最初は「ぜんぜん違う」と言っていた姉も、だんだんその気になってくる。姉のボーイフレンドも、いつしかその熱気に巻き込まれてしまう。そして映画を観ている観客も、何の根拠もないのにその男が「少年の父」だと信じ込む。その結果として、少年の思いが奇跡を生んで、観客はカタルシスを感じるわけだ。

 しかしこの映画では、その思い込みの熱気が画面のこちら側まで伝わってこない。映画を観ていても、中年男が少年の父だという話は単に少年の思い込みに過ぎないように思われてならない。だから少年の言葉に姉やそのボーイフレンドが振り回されている様子を見てもバカバカしい思いがしてしまうし、本当なら感動を生むであろうはずの結末も、とってつけたような解決にしか思えなくなってしまう。

 映画全体には軽やかなユーモアがあって、それ自体がこの映画にとって最大の財産になっていると思う。父親探しという大きなテーマは、その軽さと相反するものだったのかもしれない。だが少年の思い込みを軽やかに、しかも真剣なものとして取り扱う方法はあったのではないだろうか。映画の中には軽くほのめかされているのだが、この少年は知的障害があるのかもしれない。だからこそ彼の姉はいつもこの少年から目が離せないし、周囲の人たちも少年の突飛な行動を大目に見ているフシがある。ただし映画ではこの少年が本当に幼い少年なので、その行動の突飛さが突飛なものとしては受け取れないのだ。でもよく考えると、この少年の行動は相当に変だよ。少年の障害をもう少しはっきり描けば、彼は物語の中で聖愚者として大っぴらに活動できたはず。彼は愚者であるがゆえに、他の人々の目から隠されている世界の真実を見ることが出来る……というのは、物語の中によくあるものではないか。

 本当の子供が子供っぽいことをしても、そこに魔法は生まれない。少年が映画の中で魔法を起こすためには、映画ならではの何かの工夫が必要だった。映画のタイトルは『トリック』だが、この映画にもっとも欠けているのはそのトリックなのかもしれない。

(原題:Sztuczki)

第20回東京国際映画祭 コンペティション出品作品
配給:未定
2007年|1時間35分|ポーランド
関連ホームページ:http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=19
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:トリック
関連DVD:アンジェイ・ヤキモフスキ監督
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