鳳凰 わが愛

2007/10/21 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(ART SCREEN)
激動する中国近現代史を刑務所の中で生きた男女の物語。
実話を元にした異色の刑務所映画。by K. Hattori

 20世紀初頭の中国。村の広場で開かれた映画上映会で、自分の恋人に痴漢行為をはたらいた男をぶちのめした青年リュウ・ランは、相手の男が大ケガを負わせたとして懲役15年の刑を言い渡されてしまう。恋人は健気にも自分の出獄を待つと涙ぐむが、殴られた男はケガが治るや彼女を強姦。リュウの恋人は自殺してしまう。これを知らされたリュウは復讐のため脱走を企てて失敗。これで出獄の機会は永久になくなってしまった。

 リュウと同じ刑務所には、夫を殺して一度は死刑判決を受けた女囚ホンがいる。妊娠を理由に終身刑へと減刑されたが、子供は流産した。リュウとホンは刑務所内の作業をきっかけに親しくなり、やがて互いの存在を心の支えとして生きていくようになる。

 映画は1911年の清朝滅亡から、軍閥時代、国民党時代、満州国時代、国共内戦時代、中華人民共和国の建国(49年)以後の50年代までの約40年間を描いている。社会から隔絶された刑務所は社会で起きる変動に直接さらされるわけではないが、それでも政変のたびに刑務所の支配者が代わることで、否応なしに刑務所も時代の荒波にさらされるのだ。刑務所にいたからとて、それで人が浦島太郎になるわけではない。むしろ刑務所という政治的空白状態の中にいるからこそ、塀の外側にある社会の風向きが敏感につかめたりもする。中国の近現代史を描いた映画は多いが、それを刑務所の中から描くという視点はじつにユニーク。しかしその間に、20代の青年だった主人公は白髪の老人になる。

 この物語のアイデアは、監督が新聞で見かけた実話にもとづいているという。だがどこまでが実話なのかはよくわからない。むしろこの映画に関していえば、さまざまな形で他の映画から影響を受けていることに気がつくのだ。囚人同士が権力闘争をするエピソードは刑務所映画の定番。主人公が脱走を試みるエピソードも、刑務所ものや収容所ものによく出てくる。今や刑務所映画の古典と言える『ショーシャンクの空に』はもちろんこの映画に影響を与えていて、主人公と同房で占いの才能を持つリアンという囚人は、『ショーシャンク〜』でモーガン・フリーマンが演じたレッドという囚人がモデルだろう。彼が数年ごとに、刑務所の関係者に自分の身の潔白を訴えるシーンまでよく似ている。

 主演の中井貴一は『ヘブン・アンド・アース』に続く中国映画だが、前回は全身黒ずくめの剣の達人で、今回は善良な一市民。今回演じたリュウは口数の少ない男だが、それでも主役だからそれなりに台詞の分量もある。僕は中国語がまったくわからないが、それでも映画を観ている限りにおいて、彼の発音は完璧に見えた。同世代(中井貴一は61年生まれ)の渡辺謙(59年生まれ)や役所広司(56年)らがハリウッドなど英語圏で活躍の場を広げているのに対して、中井貴一がアジアに目を向けているのは頼もしく思えてくる。

(原題:鳳凰 Crossing Over)

11月3日公開予定 恵比寿ガーデンシネマほか全国順次公開
配給:角川映画 宣伝:デスペラード
2007年|2時間1分|日本、中国|カラー|ビスタサイズ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.ho-oh.jp/
DVD:鳳凰 わが愛
ノベライズ:鳳凰わが愛
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