GROW 愚郎

2007/08/17 TCC試写室
最強の学ラン三人組がいじめられっ子を「男」にする。
お馬鹿な映画だが、ちょっと感動する。by K. Hattori

 高校でクラスメイトから徹底的にいじめられている村上敦は、家庭にも問題山積みで、どこに行っても自分の身の置き所がない孤独を感じていた。何をやっても浮かばれない敦は、とうとう自殺することにした。だが廃墟になった工場でロープに首を突っ込んでいざ死のうとした敦の前に、見ず知らずの学ラン男三人組が現れて凄みをきかす。「お前ここで、なにやっとんねん。つまらんことしとったら、殺すぞ!」。三人は廃工場をたまり場にしている中年高校生。三人の得体の知れない迫力にすっかり自殺の気勢をそがれた敦は、彼らと友達になることで少しずつ強くたくましく変身していくのだが……。

 家では父親似暴力を振るわれ、妹にも馬鹿にされ、家を一歩出ればクラスメイトの執拗なイジメに苦しめられて、それでも何も言い返したり抵抗したりすることのできないダメ高校生の敦を演じるのは、『パッチギ!』や『パッチギ! LOVE & PEACE』などに出演している桐谷健太。物語は彼の成長(GROW)ぶりを、ほぼ彼の一人称視点で描いていく。しかしこの映画の本当の主役となるのは、彼を鍛え上げていく三人の学ラン中年男たちだ。演じているのは、寺島進、木下ほうか、菅田俊。数多くの映画でヤクザやチンピラを演じてきた彼らが、寄ってたかって敦を「男」にすべく世話を焼く、そのトンチンカンな対応ぶりがなかなか面白い。

 いじめられっ子で自殺すら考えていた高校生が、ひとつの出会いを通して生まれ変わるという物語はきわめてシンプル。でも学ラン三羽がらすは、敦に対して何か特別なことをしたわけじゃない。彼らはただ、敦を見守り、その存在を全体として認めただけなのだ。三人組は特殊な存在ではあるのだが、特別な力や道具で敦を助けることはない。彼らはドラえもんではないのだ。それでも敦は変わる。誰かが自分と一緒にいてくれるという「連帯感」と、いざとなったら自分を助けてくれるに違いないという「信頼」だけが、敦を変身させる原動力になる。

 もともと敦の周囲には、連帯感や信頼に足るだけの人間がいなかったわけではない。ちゃんと人はいるのだ。でも敦はそれに気付かなかったし、そこで確かな人間関係を作っていくためには、敦が少し変化する必要があった。だがその変化のきっかけを作った三人組自身はとりたてて何もしていないのだから、三人の役割は化学変化における触媒みたいなものだったのだ。

 最近は人間を損得関係や互いの利害だけで関係づける傾向があるようだが、利害関係のない第三者の存在で人間関係が変化していくことは、人生の中に結構あるのではないだろうか。他人に対して余計なお節介を焼いたり焼かれたりするなかから、その人の生き方に大きな変化が生まれる不思議。この映画が描いているのは、案外そうした「人生の真実」なのかもしれない。最後にちょっと感動させられてしまうのも、そのためだろう。

9月8日公開予定 渋谷Q-AXシネマにてレイトショー
配給:チェイスフィルム エンタテインメント
2007年|1時間54分|日本|カラー|ステレオ
関連ホームページ:http://www.grow510.com/
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