賞金のかかったダンスバトルでライバルチームを打ち負かしたことから恨みを買い、大切な兄を殺されてしまった高校生DJ。親戚を頼って心機一転大学生活を送ることになった彼は、ダンスの才能を見込まれて、構内にあるふたつのストンプチームから同時に誘いを受ける。ひとつは国内トップの実力チーム「ガンマ」。もう一方は伝統と格式では一番だが、ここのところガンマに次ぐ二番手に甘んじているチーム「テータ」だ。恋人エイプリルの元カレがガンマのメンバーのだったこともあり、DJはあえて二番手のテータに所属。だがチームの古風な振り付けに、ストリートダンス出身のDJは不満を募らせていく……。
映画のモチーフになっているのは、「ストンプ」や「ステッピン」と呼ばれる集団ダンス。黒人大学生の友愛会(フラタニティやソロリティー)に欠かせない伝統のダンスだそうで、ストリートダンスとは別に発展してきた集団ダンスだ。この映画の目玉は、迫力満点のストンプが間近に見られることにある。
日本人には馴染みの少ない学生たちの友愛会が、物語のバックボーンになっているのも面白い。友愛会にはギリシャ・アルファベットの名前を付けるのが伝統だそうで、映画の中でも学内にある二大友愛会の名前が「ガンマ(γ)」と「テータ(θ)」になっている。ただし友愛会については、劇中で「ただのダンスクラブじゃない云々」という説明台詞があるだけ。その後、主人公が学校を追い出されそうになったとき、再び友愛会についての話が出てくるのだが、これも台詞だけで処理している。この映画における友愛会は、学内エリート集団という属性を示す記号にしかなっていないのが少し物足りないところだ。
映画の中ではストーリーの牽引役として、とりあえず、主人公DJと学長の娘エイプリルのロマンスが盛り込まれている。しかしこの部分はいかにも「とりあえず」で、筋立ても描写もすべてが紋切り型。恋愛映画としての新鮮味や面白味がまるでない。例えばDJとエイプリルが出会う場面にしても、DJの目の前でエイプリルの姿がスローモーションになるという表現だけで、DJの一目惚れを表現し尽くしたつもりになっているのだから恐れ入る。作り手が恋愛ドラマに興味を持たなかったのは仕方ないにしても、ここまでやる気のなさを見せられてしまうと映画を観ている方も白けてしまう。DJとエイプリルの恋愛に、DJの叔母や叔父のエピソードがからんでくる仕掛けまで用意しているというのに、そこをほとんど素通りしてしまうのは残念。こうしたラブストーリーをもう少し細やかに掘り下げて行くと、青春ドラマとしても、家族の物語としても、もう一段スケールの大きな映画になったかもしれない。
劇中に何度かあるダンスバトルは、どれもすごい迫力。なんだかんだ言っても、このダンスシーンだけでも一見の価値があることは間違いない。
(原題:Stomp the Yard)