オフサイド・ガールズ

2007/07/20 松竹試写室
イランの女の子たちはワールドカップ予選を観るのも大変。
地味ながら奥行きのあるいい映画。by K. Hattori

 世界中が熱狂するFIFAワールドカップ。アジア予選が行われているテヘランのアザディ・スタジアムには、十万人を超える熱狂的なファンが集まっていた。試合直前、イラン人サポーターはスタジアム行きのバスの中でも大声で歌を歌い、旗を振り、間近に迫った決戦に向けて大いに盛り上がる。だがそんな中に、周囲の視線を気にしながらおとなしく席に座っている少年がひとり……。じつはこの少年は、男装した女性サポーター。イスラム原理主義のイランでは女性がスタジアムでサッカーを応援することを認めず、熱心な女性ファンがスタジアムに入り込むには男に変装するしかないのだ。

 イスラム教国のイランでは女性の行動がいろいろと制限されていることは知っていたが、競技場でサッカーを観てはいけないという規制があるのは知らなかった。しかもこの規制は、女性の保護を名目にしてのことだ。サッカーの試合では、サポーターたちが乱暴な野次を叫ぶ。暴力的で卑猥な言葉が交わされることもあるだろう。そうした「悪いもの」から女性を守るため、イラン社会は女性を競技場に近づけない。ただし女性がサッカーを観ること自体が悪いわけではないし、こうした規制の前提となっている「男性に守られなければならない弱い存在」という女性像に、すべての女性が当てはまるわけでもなければ、満足しているわけでもない。多くの女性は社会の求める女性像の枠内で暮らして、何の不自由も感じていないが、その女性像からはみ出してしまう女性も少なくないのだ。

 映画を観ていてもわかることだが、そもそも「女性はサッカー競技場に立ち入るべからず」という規制がきちんと守られているわけでもない。この規制はなかば有名無実化していて、熱心な女性サポーターたちはあの手この手で競技場の中に潜り込んでいるのだ。映画の中には、大胆不敵な手口でまんまと兵士たちを出し抜く女性サポーターも登場するし、一緒に競技場に来た“娘”を探す父親も登場する。捕らえた女性に逃げられた兵士は、「競技場の中で代わりの女を探してこい」と言われている。競技場の中に大勢の女性が紛れ込んでいることは、イランでは公然の秘密となっているようだ。検問で女性サポーターをしょっ引くのは、女性の入場禁止という決まりが無効になっていない事を示すアリバイ作りのようなものかもしれない。

 競技場の一角に作られた不正入場女性専用の簡易留置所に集められた女性たちと、彼女たちを監視する兵士たちの姿を中心にした映画で、おそらくあまり予算はかかっていないだろう。場所がほとんど限定されていることもあって、舞台劇のような印象も受ける。会話から登場人物たちのキャラクターが浮かび上がってくる脚本も舞台劇風だ。だがこの映画は、少女たちが競技場から軍の施設に移されるバスのシーンで、一気に映画らしい映画になる。このはじけっぷりは見事!

(英題:Offside)

8月下旬公開予定 シャンテシネ
配給:エスパース・サロウ 宣伝:樂舎
2006年|1時間32分|イラン|カラー|ヴィスタサイズ|ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.espace-sarou.co.jp/offside/
DVD (Amazon.com):Offside
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