大日本人

2007/06/04 錦糸町シネマズ楽天地(スクリーン3)
ダウンタウンの松ちゃんこと松本人志の監督デビュー作。
内容は怪獣映画の一種なのだが……。by K. Hattori

 観る者を困惑させる映画だ。困惑させられる最大の要因は、この映画がこれまで作られたいかなる映画ジャンルにも属さないからだろう。映画の歴史の中ではありとあらゆる映画ジャンルが開拓されてきていて、今さら新しいジャンルなど作りようがない。この映画も、この1本で新しいジャンルを切り開いているとは思えない。しかしこれが、既存のジャンルに収まりきらないのは事実。この映画は一属一種の生物のように、他からまったく孤立して存在する変わり種なのだ。

 もちろん、似たような映画が他にないわけではない。大きなジャンル区分の中では、これは間違いなくコメディだろう。さらに怪獣映画というジャンルの中に入れられる作品かもしれないし、映画の最初から終盤に至るまで架空の人物を延々インタビューしていく形式は、フェイク・ドキュメンタリーによくあるものだ。ただし主演が松本人志なので、この映画はフェイク・ドキュメンタリーには成りようがない。この映画が海外で評価されるとしたら、それは主演の松本人志をまったく知らない人が、本作を奇想天外なフェイク・ドキュメンタリーとして受け止めた結果かもしれない。(似たような形式の映画としては、『ありふれた事件』や『[Focus]』がある。)

 防衛任務として巨大化して怪獣と戦う「大日本人」こと大佐藤が、いくら必死に戦ったところで世間からは冷ややかな対応しかしてもらえないというのが、この映画の基本トーンだ。かつては大日本人がちやほやされた時代もあったらしいが、現在の大佐藤は近隣住民からバカにされ、厄介者扱いされ、身内であるはずの若いマネージャーにすらなめられ切っている。妻は子供を連れて別の男のもとに走り、子供は父親の存在を恥じている様子。「自分の仕事が世間から理解されない」「自分がいくら一所懸命になっても、周囲がそれを認めてくれない」という現実への自嘲といら立ち。自分の活動に人一倍の自負と誇りを持ちつつ、世間の自分に対する目や評価も冷静に分析してしまうことで生じる葛藤。

 こうした感覚の中には、松本人志本人の気持ちがかなり色濃く反映されているのではないだろうか。テレビ媒体で世間に広く知られている有名人は、その世間から冷静に、あるいは無責任に、批評分析される対象でもある。私生活を根掘り葉掘りほじくり返され、周囲の人たちは自分から少し距離を置くようになる。好き勝手に振る舞っているようで、じつはスポンサーに対する気兼ねなどもある。大日本人である大佐藤は、監督・松本人志がイマジネーションで肉付けした自画像ではないのか。

 面白いかつまらないか、笑えるか笑えないか……。そういう二項対立的な評価を突き抜けて、この映画は今観ておくべき映画だと思う。この映画のわけわからなさに頭を抱えつつ、この映画の意味不明さに戸惑いつつ、松本人志の2作目を待つべし!

6月2日公開 東劇ほか全国松竹東急系
配給:松竹
2007年|1時間53分|日本|カラー|ビスタサイズ
関連ホームページ:http://www.dainipponjin.com/
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