ベクシル

― 2077 日本鎖国 ―

2007/05/16 シネカノン試写室
ハイテク鎖国した日本にアメリカの特殊部隊が潜入するが……。
『ピンポン』曽利文彦監督の新作CGアニメ。by K. Hattori

 今から70年後、2077年の日本を舞台にした近未来SFアクション。ハイテク鎖国で人と物と情報の流れが世界と完全に遮断されている日本に、米国特殊部隊の女性兵士が潜入して見たものとは……。

 曽利文彦監督は5年前に作った実写映画『ピンポン』が高く評価されたあと、3年前には『APPLESEED アップルシード』をプロデュースしている。今回の映画も『APPLESEED』の延長にあるもので、技術としては実写とアニメの中間のようなもの。この技術がどのぐらい凄いのか、正直僕にはよくわからない。たぶんこれは映像のクオリティ云々ではなく、このクオリティのものがどのくらいの手間と時間とお金をかけて実現できるのか……という問題なのではなかろうか。

 ハリウッド映画なら、同じ事を実写でやろうとするだろう。連想する作品は、例えば『マトリックス』の3作目『マトリックス・レボリューションズ』だ。しかし映画『ベクシル』は、『マトリックス・レボリューションズ』と同じ事を、ハリウッドの大作映画に比べればごくささやかな予算で実現しようとしている。映像の専門家が観れば、これはこれで「この予算とスケジュールでよくぞここまで」という感心のしようがあるのかもしれない。だが1本の映画としてみた場合、ここに実写のリアリズムは存在しないし、かといってアニメの自由奔放さもない。どっちつかずの中途半端な映像になっているのだ。この点で、絵柄をアニメ寄りに振った『APPLESEED』の方がまとまりは良かったと思う。

 映画のテーマとして「人間そっくりのアンドロイド」というものを出していることが、こうした絵柄の中途半端さを強調してしまった。映画に登場するのは「人間と区別が付かないロボット」なのだが、僕の目から見ればこの映画に登場する人間たち自体が、そもそも「人間そっくりの別もの」なのだ。アニメに登場する平面化された人間は、すべてが記号化されていることで実写以上のリアリティを観客に感じさせることがある。だが『ベクシル』の中途半端にリアルな絵柄は、抽象化されていない分だけかえって観客の感情移入を阻んでしまう。これとそくり似たような印象は、映画版『ファイナル・ファンタジー』でも感じられたものだ。

 ドラマ部分にも気になる点は多い。物語の世界観を映画導入部で字幕処理するのはあまりに芸がなさ過ぎだし、映画中盤以降、ヒロインのベクシルが物語の外に押し出されて単なる傍観者になってるのも問題だ。本来はベクシルとレオン、マリアの三角関係が物語のベースになるはずなのに、レオンはずっと行方不明だからラブストーリーとしてのドラマも盛り上がらない。レオンは行方不明にさせず、ベクシルと一緒に行動させた方がよかったはずだ。自分と別れたあとでマリアの身に起きたことを知って、レオンは苦悩するだろう。その苦悩が、新しいドラマを生み出したのではなかろうか。

8月公開予定 丸の内プラぜールほか全国松竹東急系
配給:松竹
2007年|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.vexille.jp/
DVD:ベクシル ―2077 日本鎖国―
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