夕凪の街 桜の国

2007/04/16 映画美学校第1試写室
こうの史代の同名コミックを田中麗奈主演で映画化。
「夕凪の街」がちょっと弱いかな〜。by K. Hattori

 休刊直前のWEEKLY漫画アクションに掲載され、その後続編を含めて単行本化されるや、第8回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞や第9回手塚治虫文化賞新生賞を受賞した同名コミックの映画化。物語のテーマは広島の原爆。被爆から13年たった昭和33年の広島が舞台の「夕凪の街」と、現代の東京と広島を舞台にした「桜の国」の連作で、被爆者一家3代のドラマを描いている。僕は漫画アクションに掲載された「夕凪の街」をコンビニで立ち読みして衝撃を受け、その後の単行本もすぐに購入していたので、この映画はとても楽しみにしていた。だが優れた原作からそれをしのぐ映画は作れないというのが、映画界の常識でもある。この映画も、その常識を覆すことはできなかった。

 キャスティングに関しては、特に大きな不満もない。「夕凪の街」の主人公・平野皆実に麻生久美子、「桜の国」の主人公・石川七波に田中麗奈という配役は原作のイメージにぴったりだし、皆実の母・フジミに藤村志保、弟・旭が年取ると堺正章になるというのも贅沢な配役。特に旭は原作だとかなり洒脱な老人になっていて、その軽さが堺正章にぴったりだな〜と感心していたのだ。ただし映画版には、その「軽さ」がいまひとつ生かされていないのが残念。青年時代の旭を演じたのが、伊崎充則というのがネックだったのかも。彼はちょっと真面目な優等生過ぎて、マチャアキにつながらないのだ。(おそらくこの配役のためだろう、旭が京花にプロポーズするシーンは原作から大きく違ったものになっている。)

 原作と映画を比べて「ここが違う」「原作の方がいい」と言うのはあまり好きではないのだが、この映画の場合、原作のテーマを正確につかんでいるのだろうか……、という不満は残る。原作が描いているのは、被爆者が否応なしに背負ってしまう被爆者としての「負い目」だ。自分には何の責任もない原爆の被害者なのに、「自分は本当は死ぬべきだったのではないか?」とか「被爆者として人並みの幸せを手にしてはいけないのではないか?」と考えてしまう。特に「夕凪の街」では、家族や友人が大勢死ぬ中で自分だけが生き残ったという負い目に加えて、被爆直後の広島で地獄絵図のような風景を「日常」として受け入れてしまったことの負い目が重なり合う。映画はこうした主人公たちの「負い目」をうまく描けていただろうか? 一応は台詞の中に、それらしい言葉が出てくる。でも最終的に「夕凪の街」は、「原爆を生き延びた美しいヒロインが、新しい幸せをつかむ目前で原爆症で死ぬ」という難病メロドラマになってしまったように感じるのだ。

 原作の中でもっとも衝撃的だった、戦後10年目の風景に被爆直後の風景が重なっていく場面も映画では迫力不足。低予算の映画だからこうなったのだろうけど、ここはヒロインが「別世界」に引き込まれていく重要な場面なので、もう少し演出上の工夫が欲しかった。

7月28日公開予定 シネマスクエアとうきゅう
配給:アートポート
2007年|1時間58分|日本|カラー|ビスタ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.yunagi-sakura.jp/
DVD:夕凪の街 桜の国
原作:夕凪の街桜の国(こうの史代)
サントラCD:夕凪の街 桜の国
ノベライズ:夕凪の街 桜の国
原作英訳本:Town of Evening Calm, Country of Cherry Blossoms
関連DVD:佐々部清監督
関連DVD:田中麗奈
関連DVD:麻生久美子
関連DVD:藤村志保
関連DVD:堺正章
ホームページ
ホームページへ