コマンダンテ

2007/03/23 メディアボックス試写室
キューバのカストロ首相をオリバー・ストーンがインタビュー。
カストロは魅力たっぷりだ。by K. Hattori

 映画監督のオリバー・ストーンが、キューバの最高指導者フィデル・カストロに行ったインタビューで構成されたドキュメンタリー映画。インタビューが行われたのは2002年なので、この映画は「キューバの今」を知るにはいささか情報が古い。しかしそこで語られている内容は、キューバ革命やチェ・ゲバラとの交流、キューバ危機の真相など、すでに歴史の一部となっている出来事であることが多い。東西冷戦時代の生き証人としてのフィデル・カストロの言葉に、興味のある人は多いに違いない。これらの出来事は、既に多くの歴史屋やジャーナリストが本に書いている。映画にもなっている。しかし当事者本人の口から、直接その話を聞くというのは格別の体験だ。

 僕自身はカストロという人間にさほど強い関心があるわけではないし、チェ・ゲバラについてもさほど興味はない。これは世代の違いかもしれない。ある年齢以上の人にとって、キューバ革命はリアルタイムに経験した世界史の大激動であり、フィデル・カストロは現代の風雲児なのだ。そしてチェ・ゲバラは、キューバ革命になくてはならない英雄だろう。団塊の世代のオリバー・ストーンにとっては、カストロやゲバラは特別な思い入れのある人に違いないのだ。(アメリカ人のストーンに団塊の世代も何もないが、1946年生まれの彼は、世代的に団塊世代とほぼ一致する。)

 僕はこの映画で、オリバー・ストーンとフィデル・カストロというふたりの人間の丁々発止のやりとりを観て面白がっている。話されている内容そのものより、彼らがいかに話すのか、その腹の探り合い、駆け引きにスリルを感じるのだ。ストーン監督はカストロに敬意を払いつつ、決して彼を持ち上げたてヨイショしようなんて思っていない。むしろ相手の懐にずかずかと入り込んで、相手が答えに窮するような質問を投げつけたりする。カストロはそれにひとつひとつ誠実に答えることもあれば、はぐらかしたり、とぼけたり、勘違いしたり、聞こえないふりをしたりする。このあたりの「真剣勝負」の妙味。それがこの映画の魅力なのだと思う。

 映画の中ではカストロの証言にかぶせて、『エビータ』のテーマ曲である「アルゼンチンよ泣かないで」が何度か流れてくる。じつは映画版『エビータ』の脚本を書いているのがオリバー・ストーン(監督はアラン・パーカー)。そこにはアントニオ・バンデラス扮するチェ・ゲバラが、独裁者の妻へと上り詰めるエビータを見守る狂言回しとして登場している。『エビータ』からチェ・ゲバラを通してカストロへと、ストーン監督の中では話がつながっているのかもしれない。ならば彼は、エバ・ペロンとカストロもどこかで重ね合わせているのかな。エビータの愛称で国民から敬愛されたアルゼンチンの独裁者婦人と、コマンダンテと呼ばれて国民たちから親しまれているキューバの独裁者。ストーン監督は、彼らが大好きなのだ。

(原題:Comandante)

初夏公開予定 ユーロスペース
配給:アルシネテラン
2003年|1時間40分|アメリカ、スペイン|カラー|アメリカン・ヴィスタ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.alcine-terran.com/
DVD:コマンダンテ
DVD (Amazon.dom):Comandante
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