オール・ザ・キングスメン

2007/01/16 SPE試写室
ロバート・ペン・ウォーレンの政治小説を再映画化。
善意が悪にまみれていく恐ろしさ。by K. Hattori

 1949年にも一度映画化されているロバート・ペン・ウォーレンの同名小説(日本では「すべての王の臣」という題名で翻訳出版された)を、スティーヴン・ゼイリアン監督がショーン・ペンとジュード・ロウ主演で再度映画化した政治サスペンス映画。物語の舞台は1940年代のルイジアナ州。政治の腐敗を糾弾して知事選挙に立候補した地方の役人ウィリー・スタークは、政治の裏側にうごめく権謀術数に触れて人間が豹変し、州知事に当選してからは自らが腐敗の汚辱にまみれて堕落していく。低所得者層への手厚い保障政策で人気を得た彼は、議会を牛耳る財界からの支持を失い弾劾されることになる。弾劾成立を阻止するため、スタークは側近のジャック・バーデンを使って、弾劾派のリーダーであるアーウィン判事に圧力をかけようとするのだが……。

 原作はルイジアナ州知事から上院議員になり、大統領選挙も狙えるほど大衆的人気のあった実在の政治家、ヒューイ・P・ロングをモデルにしているらしい。原作未読でロバート・ロッセンの映画も観ていないのだが、知事選で地方票を割るために当て馬の対立候補を立てるという話など、生々しい政治の匂いがしてくる。ただしこの映画、政治の裏側にある駆け引きを描いているのはごくわずかで、主として政治の周辺で政治家に翻弄される人々の悲劇を描いているのだ。欲望と欲望がぶつかり合い火花を散らすドラマチックな政治劇ではなく、それを横目に見ながら生きていく、生命力の弱そうな人々。しかしそうした人間像を克明に描写していく筆致は、じつに力強く、硬質でシャープなもの。緻密な機械がちょっとした狂いから自壊していくように、スターク周辺の人間関係は自らの力で崩壊していく。

 映画は政治集団内部の葛藤や問題点を、鋭利な視線であぶり出していく。問題はそれが鋭利すぎることかもしれない。これはよく切れるカミソリかメスで、鋭く対象に切り込みを入れるようなもの。だが地方政治家の有無を言わさぬ強引な政治活動を描く映画にしては、切り取り方にダイナミックさが欠ける。これは大型ナイフやナタを使って、真っ向から対象に食らいついた方がよかった。

 物語はジュード・ロウ扮する元新聞記者ジャックが、成り上がり者の州知事ウィリーの栄枯盛衰を目撃するという形をとる。だが本来なら狂言回しであるはずのジャックが、この映画ではウィリーを押しのけて主役の座を食ってしまうのだ。たぶんこれは、脚本の構成に問題があるのだろう。映画は後半、ジャックと幼なじみの女性とのねじれたロマンスに焦点を当てて、主役のウィリーを脇に追いやってしまう。弾劾決議が成立するかというサスペンスが薄まって、映画の最後にある皮肉なクライマックスも印象が薄まってしまったように思う。

 ショーン・ペンは相変わらず上手いが、今回はケイト・ウィンスレットやパトリシア・クラークソンなど女優陣の演技が光っていた。

(原題:All the King's Men)

陽春公開予定 日比谷みゆき座ほか全国東宝洋画系
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2006年|2時間8分|アメリカ|カラー|ビスタサイズ|SDDS、SRD、SR
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/allthekingsmen/
DVD:オール・ザ・キングスメン
DVD (Amazon.com):All the King's Men (Special Edition)
DVD (Amazon.com):All the King's Men [Blu-ray]
サントラCD:All the King's Men
原作:すべての王の臣(ロバート・ペン・ウォーレン)
原作洋書:All the King's Men (Robert Penn Warren)
関連DVD:オール・ザ・キングスメン(1949)
関連DVD:スティーヴン・ゼイリアン監督 (2)
関連DVD:ショーン・ペン
関連DVD:ジュード・ロウ
関連DVD:ケイト・ウィンスレット
関連DVD:ジェームズ・ガンドルフィーニ
関連DVD:マーク・ラファロ
関連DVD:パトリシア・クラークソン
関連DVD:アンソニー・ホプキンス
関連書籍:アメリカン・ファシズム―ロングとローズヴェルト(三宅昭良)
関連書籍:幻の大統領―ヒューイ・ロングの生涯(土田宏)
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