シャーロットのおくりもの

2006/11/29 東京国際フォーラム・ホールC
かつてアニメ化された有名児童文学を実写でリメイク。
今はCGを使って何でもできる。by K. Hattori

 E.B.ホワイトが1952年に書いた同名児童文学作品を、ダコタ・ファニング主演で映画化。原作は1972年にハンナ&バーベラ製作でアニメーション映画にもなっており、今回は実写映画としてのリメイクだ。子ブタのウィルバーとクモのシャーロットの交流に、他の動物や人間たちが巻き込まれていくという物語は、10年前ならアニメでしか映像化できなかっただろう。しかしデジタル映像技術の急速な発達で、今では何でもできてしまう。リアルな映像には、感心するしかない。

 子ブタが主人公の実写版ファンタジー映画といえば、1995年に作られたオーストラリア映画『ベイブ』を思い出す。絵に描いたように牧歌的な農場風景や、そののどかさに反してブタたちの目の前に食肉という未来が否応なしに存在するという現実も含めて、ふたつの映画はじつによく似ているのだ。しかしその後の展開は、大きく食い違ってくる。『ベイブ』の子ブタは牧羊犬ならぬ牧羊豚になることで、農場の中で生きる道を切り開く。ベイブは他に類を見ない特別なブタなのだ。それに対して『シャーロットのおくりもの』の主人公ウィルバーは、まるっきり普通の、どこにでもいる、平凡なブタ。むしろ生まれた時から体が小さく、他のブタに比べると見劣りのする普通以下のブタなのだ。ウィルバーは自分で何か芸を身に付けるわけではない。何か特別な才能に目覚めるわけでもない。彼がやったことは、クモのシャーロットと仲良くなったこと。たったそれだけのことで、ウィルバーはハムになる運命を免れるのだ。

 ウィルバーはなぜ救われるのか? この理由が、僕にはどうも釈然としない。クモのシャーロットはキリストのメタファーなのかもしれないが、映画の後半でそのあたりの噛み合わせがうまく機能しているようにも思えない。

 ちなみにシャーロットがキリストである理由は、彼女が生前にいくつかの奇跡を起こすこと、自らを犠牲にしてウィルバーを救い、死んだ後に別の形で復活すること、ウィルバーが救われたのは彼の行いや性格に理由があるのではなく、ただシャーロットに対する堅い信頼に由来すること、などから類推することができる。神は人間の行いによって救うべき人を選ぶのではなく、ただ人間の信仰によってその人を救う。なんの取り柄もない人間でも、神に対する信頼さえあれば、神はその信頼に必ず応えて救いの手をさしのべる。『シャーロットのおくりもの』は、キリスト教における「信仰義認」の子ブタ版になっているのだ。

 僕がこの映画の結末にピンと来なかったのは、シャーロットがクモの巣で作る言葉のメッセージが、僕の心に届かなかったからだ。映画のラストではクモの巣が文字を綴るという不思議を超えて、そこに書かれたメッセージが人々の心をとらえているはずなのだ。しかしそのメッセージは、なぜ人の心をとらえたのだろうか? これが僕にはよくわからないのだ。

(原題:Charlotte's Web)

12月23日公開 日比谷スカラ座ほか全国東宝洋画系
配給:UIP
2006年|1時間37分|アメリカ|カラー|1.85:1|DTS、SDDS、Dolby Digital
関連ホームページ:http://www.charlotte-movie.jp/
DVD:シャーロットのおくりもの
サントラCD:シャーロットのおくりもの
サントラCD:Charlotte's Web
関連CD:Charlotte's Web: Music Inspired by the Motion Picture
原作:シャーロットのおくりもの(E.B. ホワイト)
原作洋書:Charlotte's Web (E. B. White)
関連DVD:シャーロットのおくりもの(アニメ版)
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