世界最速のインディアン

2006/10/23 SPE試写室
還暦過ぎでオートバイの世界最高速度を出した男!
実在の人物を主人公にした伝記映画。by K. Hattori

 やたらと主人公が自己紹介する映画である。「俺はバート・マンローだ」と何度自己紹介し、何人の人たちと握手しているのだろうか。この映画の中でアンソニー・ホプキンスが演じているバート・マンローは実在の人物だ。1899年ニュージーランド生まれ。少年時代からバイクに乗っていたマンローは、やがてバイクを改造してスピードを目指すようになった。還暦を過ぎた1960年代、愛車の1920年型インディアン・スカウトでオートバイのスピード世界記録を打ち立てた。なんと彼が作った記録は、いまだに破られていないという。この映画はニュージーランドの田舎町でバイク改造に明け暮れていたマンローが、スピード記録のメッカ、アメリカ・ユタ州のボンヌヴィル・ソルトフラットを目指す旅を再現している。

 監督・脚本・製作は、『スピーシーズ/種の起源』や『ダンテズ・ピーク』『13デイズ』のロジャー・ドナルドソン。彼はオーストラリア生れで、20歳の時にニュージーランドに移住。そこで生前のバート・マンローに出会って、71年にテレビ用のドキュメンタリー映画を作っている。マンローが78年に亡くなった翌年から、ドナルドソン監督はマンローの伝記映画を企画。しかしなかなか実現にこぎ着けることができず、今回の映画は企画から26年目にしてようやく実現したものなのだ。

 「構想○○年」の類は、作り手の思い入ればかりが肥大してつまらない映画になることも多いのだが、この映画は作りがシンプルなせいかその手のつまらなさとは無縁。アンソニー・ホプキンス演じるマンローが、ニュージーランドからボンヌヴィルを目指すというロードムービー形式にして、主人公ひとりにすべてのエピソードをぶら下げたのがよかった。回想シーンなどは使わず、観客はマンローの旅に同行しながら、彼の語ったことを聞き、彼の見たものを見て、彼が出会った人々と出会う。この旅の、なんと素敵なことか!

 マンローは自分の触れたものを、すべてマンローのカラーに染めてしまう。どんなに頑なな人も、マンローに出会うとつい心を開いてしまうのだ。日頃からマンローの頑固さや変人ぶりにうんざりしている人も、最後はやっぱりマンローを応援せずにいられなくなる。触れるものすべてが黄金に変わるミダス王のように、マンローも出会う人すべてを変えていく。もちろんこの映画に描かれたエピソードは、ほとんどがフィクションだろう。しかしドナルドソン監督もまた、生前のマンローに出会って心を開かされたひとりなのだ。監督がここで描こうとしているのは、マンローの行動の正確な再現ではない。彼はマンローという男の人柄をや生きる姿勢を、スクリーンの中に再現しようとしているのだ。

 マンローと出会ったとき20代の青年だったドナルドソン監督も、今では劇中のマンローと同年配。劇中のマンローには、監督の自画像も多少投影されているはずだ。

(原題:The World's Fastest Indian)

2007年お正月第2弾公開予定 テアトルタイムズスクエア、銀座テアトルシネマほか全国公開ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2005年|2時間7分|ニュージーランド、アメリカ|カラー|シネスコ|SRD、SR
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/theworldsfastestindian/
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