夜のピクニック

2006/10/18 シネマ・ロサ
恩田陸の同名小説を長澤雅彦が映画化した青春ドラマ。
主演は多部未華子と石田卓也。by K. Hattori

 『青空のゆくえ』で瑞々しい青春ドラマの冴えを見せた長澤雅彦監督が、恩田陸の同名小説を映画化した青春ドラマ。24時間で80キロを歩き通すという高校行事の中に、少年少女たちの友情や恋愛、人生との葛藤などが盛り込まれている。映画の最初から最後まで、物語の舞台はほとんどが道の上。その中に、さまざまなエピソードが盛り込まれていく構成だ。高校生活の1日に青春のすべてがギュッと凝縮されているような、これはいたってシンプルなロードムービーなのである。

 主演の多部未華子目当てで観たのだが、正直、彼女も女優としては難しい年頃になっているな〜という印象。高校生以上の役になると、日本はアイドルタレントも含めて女優の層が厚いのだ。『ルート225』や『ゴーヤーちゃんぷるー』のように同年配の少女たちがいない場所でなら、彼女はベテランの俳優たちに負けないしっかりした芝居を見せる。しかしこの映画のように同年配の少女女優たち大勢の中に入ってしまうと、彼女の持ち味を発揮するのがちょっと難しい。しっかりした顔立ちで存在感はひときわなのだが、そのわりには声の線が細いので、会話シーンになると他の若い女優たちの中に埋もれてしまう面もある。この声はこの声なりに特徴があるので、演出を工夫すれば生きるとは思うんだけど……。

 全体にどうにも盛り上がらない映画だ。長い距離を歩く内に、主人公はじめ登場人物たちは疲労して、動きにはキレがなくなる、口数は少なくなる。その疲労感が、映画を観ているこちらにまで伝わってヘトヘトになってくるのだ。これでは物語のテンションが上がりようもない。ストーリーに仕掛けられているドラマも、転校したクラスメイトの「おまじない」の正体とか、彼女が好きだった相手は誰なのかというミステリーとか、ヒロインが心の中に秘めている小さな賭けの正否とか、そんな小さなものばかりなのだ。小説ならこれでも構わないかもしれないが、映画としてはクライマックスに何か大きなドラマを用意してほしかった。

 この映画の主人公ふたりには、心の中に何年も抱え込んでいるわだかまりがある。それが解消して和解に向かうというのは、結構大きなドラマではないだろうか。映画の終盤にクライマックスを用意するとしたら、たぶんこの葛藤と和解のプロセスにこそそれはあるはずだ。ところがこの映画は、各エピソードがそのドラマと結びつかない。そのため肝心のドラマは、他の小さなエピソードにまぎれて流されてしまう。それまで内的葛藤の核になっていた主人公たちふたりの関係も、飛び入り参加のトリックスターの暴露でサスペンスを生む間もなく消滅してしまう。

 悪い映画ではない。丁寧に作られたいい映画だ。しかし僕はここから、『青空のゆくえ』の半分の感動も得ることができなかった。いい場面はたくさんある。特にロケーション撮影した風景は素晴らしい。でも映画はやっぱりドラマなのだ!

9月30日公開 丸の内ピカデリー1ほか全国松竹東急系
配給:ムービーアイ、松竹
2006年|1時間57分|日本|カラー|ビスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.yorupic.com/
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