父親たちの星条旗

2006/10/05 丸の内ピカデリー1
米軍による硫黄島占領の写真に隠された真実とは。
イーストウッドの硫黄島2部作第1弾。by K. Hattori

 太平洋戦争末期の1945年2月。アメリカの猛攻で日本の降伏が近づいていることを、全世界に知らしめる1枚の写真が撮影された。それは日本の領土である硫黄島の摺鉢山頂上に、アメリカ兵たちが星条旗を掲げている写真だ。この写真は、太平洋戦争について書かれたあらゆる教科書や書籍に掲載され、記録映画やテレビ番組でもしばしば引用されている。当日この写真にたまたま写された若い兵士たちは、戦争の英雄として一躍有名になったのだが……。

 クリント・イーストウッドの最新作は、太平洋戦争におけるアメリカ勝利の象徴となった「硫黄島の星条旗」にまつわる実話の映画化だ。原作者は星条旗を摺鉢山に掲げ、戦争の英雄のひとりとなった衛生下士官ジョン・ブラッドリーの息子ジェイムズ・ブラッドリー。彼の父ジョンは戦後をごく静かに平凡に暮らし、戦争中の話はほとんどしなかったという。原作者のジェイムズは父親の死後、その戦争体験を何年もかけて取材したのだという。映画はその取材過程も物語に盛り込みながら、自ら望んだわけでもないのに戦争の英雄になってしまった、3人の若者たちの心の傷を丁寧に描いている。

 息子が死んだ父親の足跡をたどるという構成は、子供たちが死んだ母親の恋愛体験をたどるという、同じイーストウッド監督の映画『マディソン郡の橋』に通じるもの。親子の情愛や家族の絆を縦糸に回想形式(インタビュー形式の場合もある)の形をとりながら、そこにさまざまなエピソードをぶら下げていく構成だ。物語の中心になるのは海軍の衛生兵だったジョン・ブラッドリーと、海兵隊員レイニー・ギャグノンとアイラ・ヘイズ。3人のキャラクターがうまく描き分けられている。英雄よばわりに言いようのない違和感を感じるブラッドリー、英雄視されることに有頂天になるギャグノン、そして自分が英雄になってしまったことに罪悪感さえ感じて自滅していくヘイズ。映画の中では特に、アメリカ先住民の血を引くヘイズの運命に同情的な目が注がれているように思う。

 映画では激しい戦闘シーンと帰国した3人が熱狂的に歓迎される場面を交互に配置している。これによって平和な銃後の生活ぶりと過酷な戦場の現実が対比され、戦場の生々しい現実を知らないまま戦争気分に浮かれ騒ぐアメリカ国内で、戦場から戻ったばかりの兵士たちが精神的に孤立していく様子を観客も一緒に体感できるのだ。

 映画の中では描かれていなかったが、主人公3人はジョン・ウェイン主演の映画『硫黄島の砂』(49年)に本人たち役で出演しているようだ。また英雄扱いから一転不遇の死を迎えたアイラ・ヘイズについては、1961年に『硫黄島の英雄』という映画がトニー・カーチス主演で作られている。

 本作はイーストウッドの硫黄島2部作のうち、アメリカの視点から戦いを描いた第1部。第2部は日本の視点から硫黄島を描く『硫黄島からの手紙』だ。

(原題:Flags of Our Fathers)

10月28日公開予定 丸の内ピカデリー1ほか全国松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース映画
2006年|2時間12分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|SRD、DTS、SDDS
関連ホームページ:http://wwws.warnerbros.co.jp/iwojima-movies/
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