イカとクジラ

2006/07/13 SPE試写室
離婚した両親の間で揺れ動く思春期の兄弟たち。
新しい関係を模索する家族に共感。by K. Hattori

 「今日は学校が終わったらすぐ帰ってくるんだ。家族会議をする」。ウォルトとフランクのバークマン兄弟は、ある日突然、両親が離婚を決めたと知らされる。両親は父親が家を出る形で別居。兄弟は週を半分に区切って父と母の家を往復することになる。理不尽な話ではあるが、大人たちにもそれぞれの人生がある。子供はそれを理解し、受け入れるより他にない。しかし離婚の原因が母親の浮気にあるとわかったころから、両親と子供たちの関係がギクシャクし始める。互いに自分の正しさを主張するばかりの両親に、子供たちはウンザリする。しかしそこから逃れられないのが、子供たちの現実……。

 子供にとって、親は絶対の権威者だ。親は常に正しく、親は常に子供たちより賢い。親の人生は子供たちの未来を照らし、子供は親を信頼してその指導に従う。だがそうした親の絶対性も、子供が思春期になると急速に色あせてくる。この映画は両親の離婚に対する子供たちの反抗という特殊な事例を扱っているが、ここに描かれている子供と親の関係は、おそらくどんな家庭にもある普遍的なものだろう。親は絶対的な正しさの体現者ではなく、子供と何ら変わらない、ひとりの弱い人間に過ぎないのだ。子供はいつしかそれに気づく。親の権威は崩れ、それまで無条件に受け入れられていた親の言葉は、子供の耳に虚しく響くようになる。「親だから」「子供だから」という理由だけで、親は子供を自分の好き勝手に扱おうとする。そこから逃れたくても、子供はやはり親の庇護かで生きていくしかない。

 脚本・監督はノア・バームバックで、これはブルックリンで生まれ育った彼にとって自伝的な作品だという。低予算のインディーズ映画だが、1980年代の雰囲気を出すために、最近の低予算映画で多用されているデジタルビデオではなく、Super16を使って撮影しているという。ここではノスタルジーの起動装置として、フィルムの質感が必要とされているわけだ。

 両親を演じるのはジェフ・ダニエルズとローラ・リニー。母親のボーイフレンド役にウィリアム・ボールドウィン。父のガールフレンド役にはアンナ・パキン。こうしたベテランたちが、息子兄弟を演じるジェス・アイゼンバーグとオーウェン・クラインを周囲からサポートしている。印象的なのは父親と関係を持ちながら、ウォルトを誘惑するように振る舞うリリ役のアンナ・パキン。彼女は『グース』でジェフ・ダニエルズと親子役を演じており、それを知っていれば、このふたりが深い関係になることの不自然さと異様さが一層強く感じられるだろう。(『グース』はもう10年前の映画なんですね……。)

 一度壊れた家族はもとに戻らない。しかしその中から、新しい家族関係を作っていこうとする人間たちの姿に共感する。離婚をしても、子供は子供で親は親、家族は家族なのだ。なんとも悲しくて滑稽な人間たち。そこに僕は自分自身を見る。

(原題:The Squid and the Whale)

11月公開予定 新宿武蔵野館
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
宣伝:ムヴィオラ
2005年|1時間21分|アメリカ|カラー|1.85:1|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/thesquidandthewhale/
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