男はソレを我慢できない

2006/06/14 アスミック・エース試写室
下北沢を舞台にした寅さん映画のパロディ。
出演者の豪華さにびっくり。by K. Hattori

 渥美清主演の国民的な人気映画シリーズ『男はつらいよ』が、48作目の『寅次郎紅の花』と49作目の『寅次郎ハイビスカスの花 特別篇』で幕を閉じてから間もなく10年がたつ。葛飾柴又生まれのフーテンの寅は、スクリーンの彼方に消え去って二度と我々の前には現れない。しかし日本には別の寅さんがいた。下北沢に生まれ育ったDJタイガーだ。

 映画『男はソレを我慢できない』は、寅さん映画のフォームをなぞったパロディかパスティーシュのような作品だ。主人公の風来坊タイガーが、実家の菓子屋に戻ってくるところから物語が始まる。店を守っているのは、おいちゃんとおばちゃん。店には妹のチェリーがいる。昔なじみの遊び仲間たち。そして同じ町内に住む、憧れのマドンナ。やがて町内を揺るがす事件が起きて、主人公タイガーはそれを解決するため奔走。事件は解決するがタイガーはマドンナに振られて、ひとり故郷の町を去っていく……。話の導入部、展開、結末部分まで、すべてが寅さん映画を踏襲しているのだ。

 しかしこの映画には、寅さん映画とはまったく違う現代のニオイがある。物語の舞台が東京東部の葛飾柴又から西部の下北沢になっていることで、寅さん映画が依拠していた下町の人情や情緒とは別の空気が映画に満ちることになった。またフーテンの寅は女に惚れても決してセックスを感じさせない去勢された男だったが、この映画のタイガーはもっと生臭いひとりの男性として描かれている。この映画の中で起きる事件は、下北沢にソープランドが進出してくるというものなのだ。町にはソープ進出反対運動が起きるが、その先頭に立っていた男たちは狡猾なソープ経営者たちに「実地体験」で買収されて骨抜きにされてしまう。業を煮やした女たちが経営陣に掛け合うと、今度はホストクラブの接待攻勢でこちらも骨抜き。しかしこの風俗店経営者たちには、じつはまったく別の目的があったのだ……というあたりから物語は民話めいた展開になる。

 天狗が下北沢を支配しようとしているという話は現実離れしたファンタジーでしかないのだが、この映画の中では「寅さん映画」という形式もまた、ファンタジーを成立させる道具立てになっているのだろう。寅さん映画もまたファンタジーであるという判断が、この映画の中には込められているのかもしれない。

 映画の随所にグラフィカルな表現が盛り込まれているが、監督はアートディレクターや映像ディレクターとして活躍している信藤三雄。これが長編劇場映画デビュー作だ。上映時間は約1時間半とコンパクトだが、話の内容それ自体より小ネタと映像で見せるスタイルではこれでも長すぎるぐらいかもしれない。あちこちにダレる場面があるので、これを刈り込めばあと5分は絞れたかも。全編下北沢でロケしており、再開発計画のある下北沢の今を記録する意味もあるそうな。下北沢の街に愛着を持つ人には面白いかもね。

夏休み公開予定 渋谷シネ・アミューズ
配給:キネティック、シモキタ・シネマ・プロジェクト
2006年|1時間33分|日本|カラー|ヴィスタサイズ
関連ホームページ:http://otoko-sore.excite.co.jp/
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