ダメジン

2006/06/14 メディアボックス試写室
彼らは乞食かルンペンか。はたまた究極の自由人?
ダメ男3人組の現実逃避日誌。by K. Hattori

 日本のとある場所にある工業地帯。そこで日がな一日何をするでもなく暮らす男たちの姿を描く、三木聡監督の長編初監督作品。三木監督の映画は既に『イン・ザ・プール』や『亀は意外と速く泳ぐ』が劇場公開されているが、じつは本作『ダメジン』の方が撮影は早かったのだ。しかし諸般の事情で、映画は完成しないまま3年間も塩漬け状態。その後からくも救出されて、今回の公開にこぎ着けたという経緯があるらしい。塩漬け状態からサルベージされることなく終わる映画も多いので、これはとても幸運な作品なのだ。

 タイトルの『ダメジン』とは「駄目人間」のこと。主人公の3人は工場裏の空き地にバラックを建て、そこで何もせずボンヤリと日々を過ごしている。金はないが、それでも何となく生きては行ける。彼らの周囲には、昔の遊び仲間だった間抜けなサラリーマンだの、子分のいない貧乏やくざだの、トルエン中毒のフリーターだの、潰れかけた町工場の社長や社員だの、どう見てもうだつの上がらない、二流どころの人間がぞろぞろと雁首揃えているのだ。そのダメっぷりにはかなりの濃淡があるのだが、たぶんこの手のダメジンに、誰もがひとりやふたり心当たりがあるのではなかろうか。僕も数人知っている。いやそれどころか、他人の目から見れば僕も立派なダメジンかもしれない。この映画の登場人物たちには、そうした「親密さ」を感じさせる何かがある。

 大きな物語というのは特にない。貧乏やくざの帰還と退場や、倒産寸前の工場が仕掛けた起死回生の一発勝負、怪人ゲシル先輩の伝説作りといった長いスパンのエピソードもあるのだが、これらが主人公たち3人と大きく絡んでいかないのだ。この映画に登場するのはみんな揃ってダメジンなのだが、主人公たち3人組が特にその中でもダメダメなのは、彼らがまったく物語を引っ張っていこうとしないことだろう。彼らは周囲の状況に合わせて、流されるままに生きている。積極的な「生きる」という意欲はなくても、日々の暮らしの中で何となく生きる喜びのようなものを満喫している3人組。ぶっ壊れたスニーカーに拾った紐を通すエピソードもいいし、橋の下で野宿をする3人のうちひとりが、近くで得体の知れない布団を拾ってくるエピソードは秀逸だ。

 毎日夏休みのような生活を続ける社会からの逸脱者という意味で、この映画は主人公たち3人とやくざを同列に置いている。やくざと付き合っているはずのチエミが、リョウスケに心を動かされるのが象徴的だ。この映画の中ではやくざもルンペン暮らしもまったく同レベルなのだ。いつも着たきり雀の3人組は本当ならかなり臭そうだが、映画の中ではそれについてまったく何も触れない。この映画は主人公たちを暗黙のうちに脱臭してしまうことで、「ダメジン」という共通項で登場人物すべてを横並びの平等な関係性の中に放り込むことに成功している。これはある種のユートピアだ。

7月1日公開予定 テアトル新宿ほか全国順次公開
配給・宣伝:アンプラグド
2006年|1時間38分|日本|カラー|ビスタ|ドルビー
関連ホームページ:http://www.damejin.com/
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