ゴーヤーちゃんぷるー

2006/05/10 メディアボックス試写室
家出して西表島を訪れた女子中学生の成長物語。
主演はお気に入りの多部未華子。by K. Hattori

 中学校でのイジメをきっかけに、学校を休み引きこもるようになったひろみ。両親は彼女が幼いころに母が家を出る形で離婚し、写真家の父は海で行方不明になった。ひろみを引き取った祖父母は、孫の不登校におろおろするばかり。インターネットの掲示板でケンムンと名乗る青年と知り合ったひろみは、祖父母に黙って家を出ると、彼がアルバイトをしている西表島へと向かった。その島には、ひろみを捨てた母が暮らしているはずだ。ひろみは島で診療所の手伝いをしている母と再会するが、母には自分が誰なのか告げなかった。ケンムンのアルバイト先もみつけるが、彼に名乗り出ることもしなかった。こうしていろんな秘密で塗り固めた、ひろみの島での暮らしが始まる……。

 主演は『HINOKIO』や『ルート225』など、主演映画が次々公開されている多部未華子。現在僕が個人的に一番注目している若手女優だ。原作は竹内紘子の「まぶらいの島」。心に傷を持つ少女が南の島に渡り、人々の人情に囲まれて再生していく……という話はありきたりだが、松島哲也監督はこの物語を容易に「美しい風景」には委ねず、そこにある人間ドラマの描写に真正面から取り組んだ。個々のエピソードは、出演者の演技や存在感に助けられている部分も多い。祖父を演じた北村和夫、母役の風吹ジュン、診療所の医師を演じた美木良介、末期ガン患者を演じた下條アトムなど、ベテラン俳優たちが要所に配置されて映画を引き締めている。『ナビィの恋』や『ホテル・ハイビスカス』もに出演していた琉球民謡歌手の大城美佐子が、存在感たっぷりに島のユタを演じているのにも注目だ。

 インターネットの匿名掲示板や、携帯電話を使ったメール・コミュニケーションが、映画の中で重要な役割を担っている。パソコンを使った掲示板でのやりとりと、携帯のメールと、口頭でのやりとりの違いによって、言葉がさまざまなニュアンスで伝わっていく。すぐに声が届く距離で、ひろみがケンムンとメールを交換するシーンが印象的だ。

 多部未華子は相変わらず素晴らしい。肉体的に伸び盛りの少女だけが持つ健康なエロティシズムを、今の彼女ほどに感じさせる女優は他にいない。同じ魅力はかつて、『がんばっていきまっしょい』の田中麗奈と共演の少女たちからも感じられた。しかし現在の田中麗奈に、その魅力は既にない。十代の少女だけが持つ旬の瑞々しさは、おそらくほんの数年で多部未華子からも消えてしまうだろう。もっとも少女らしさの片鱗をいつまでも残す、原田知世のような例もあるにはあるけれど……。

 映画として下手な部分もある。幾つかのエピソードが、物語の中にしっくりと落ち着いていないような印象を受けるのだ。観客が納得する前に説明的なシーンが挿入されてしまい、その前後がちぐはぐになっている。しかしこうした欠点を差し引いても、全体としてはいい映画だったと思う。

6月中旬公開予定 東京都写真美術館ホール
配給:アウル21
2005年|1時間41分|日本|カラー|ビスタ(1:1.85)|DTS
関連ホームページ:http://www.owl21.net/goya-champuru/
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