僕の大事なコレクション

2006/04/12 ワーナー試写室
アメリカのユダヤ系青年が祖父の故郷ウクライナへ。
リーブ・シュライバーの初監督作。by K. Hattori

 ユダヤ系アメリカ人の青年ジョナサンには、奇妙な収集癖がある。それは自分の身の回りにいる人にちなんだ品物を、何でもかんでも片っ端から保存しておくことだ。ごくつまらない日用品やゴミクズのようなものも、ジョナサンは警察の鑑識係のようにジッパー付きの小さなビニル袋に入れ、部屋の壁に分類して張り付けておく。その壁はジョナサン自身の過去を綴った、小物とゴミクズによる巨大なタペストリーのようだ。そんなジョナサンは、病床で死が間近に迫っている祖母から1枚の写真を手渡される。それは亡くなった祖父が残したウクライナ時代の写真。若い祖父の傍らに立つ若い女性の胸元には、祖父の残したペンダントヘッドがあった。ジョナサンは彼女が会うため、ひとりウクライナまで旅をするのだが……。

 『スクリーム』シリーズや『クライシス・オブ・アメリカ』に出演していた俳優、リーブ・シュライバーの監督デビュー作だ。原作はジョナサン・サフラン・フォア。映画の主人公と同じ名前だ。原作者のフォアは実際にユダヤ系のアメリカ人で、1999年にウクライナを訪れたことがきっかけで、小説「エブリシング・イズ・イルミネイテッド」を書いたという。つまりかなり自伝的な内容なのだろう。脚本は監督のシュライバー自身が手がけている。

 映画の主要人物の中で、アメリカ人は主人公のジョナサンひとりだけ。あとは英語がまったく喋れないか、片言の英語力しかないウクライナ人だ。ジョナサン役のイライジャ・ウッド以外は見慣れない顔だったため、役者はみんな実際にウクライナやロシアで探したのかと思ったら、なんと主要なキャスティングは全部アメリカで行われている。これは映画を観た後、プレス資料を見て驚かされてしまった。通訳のアレックスを演じているのは、ウクライナ出身で現在はアメリカで音楽活動をしているユージン・ハッツ。その祖父を演じたボリス・レスキンは、ロシア出身で現在はアメリカの映画やテレビで活躍しているベテラン俳優。映画の終盤に登場する老婆役のラリッサ・ローレットもポーランド出身で、現在は舞台やテレビで活躍している大ベテランだ。

 主人公のジョナサンはウクライナへの旅で、自分の体に流れているユダヤ人の血のルーツと、その悲しい歴史を知ることになる。かつて貧しい東ヨーロッパから、数多くの移民たちが新天地アメリカに渡ったのだ。この映画ではそんな移民社会アメリカのルーツが、映画という虚構の「物語」の中だけではなく、登場する役者たちのキャスティングでもそっくりそのまま再現されているわけだ。ごく小さなインディーズ映画だが、ここに切り取られているのは紛れもない「アメリカ史」の一断面であり、「世界史」の中にある悲劇なのだ。ウクライナという地の果てで起きているような一家族の事件は、ここにおいて「アメリカ社会」の現実とリアルに結びつく。そんなとこに映画を観た後で気がついた次第。

(原題:Everything Is Illuminated)

4月29日公開予定 シネマスクエアとうきゅう、アミューズCQNほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
2005年|1時間45分|アメリカ|カラー|ビスタビジョン・サイズ|SRD
関連ホームページ:http://wwws.warnerbros.co.jp/everythingisilluminated/
ホームページ
ホームページへ