ココシリ

2006/03/22 SPE試写室
ヒマラヤカモシカを密猟者から守る山岳パトロール。
その過酷な戦いの実話を映画化。by K. Hattori

 富士山より高い、チベット高原の海抜5,000メートル付近に暮らすチベットカモシカ。別名チベットレイヨウ、チベットアンテロープ、英語でチルーとも呼ばれるこの動物の毛は、軽くて保温性に富み、シャトゥーシュと呼ばれる超高級毛織物の材料として珍重されている。1980年代には中国からのチベットカモシカ製品輸出が禁止され、保護動物にも指定されて捕獲が禁止されたが、闇市場で高価に売買される毛皮を確保するための密猟が横行。かつては100万頭いたとも言われるチベットカモシカは、1990年代に1万頭にまで減少してしまった。マシンガンで武装した密猟者たちは一度に数百頭単位でカモシカの群を殺し、毛皮を剥いで丸裸になった死体は原野を埋めつくす。こうした密猟者の取り締まりに活躍したのが、地元の民間人で構成された山岳パトロール隊。映画『ココシリ』は彼らと密猟者の戦いを描く実録ドラマだ。

 ココシリと呼ばれるチベット高原の山岳地帯に、都会から青年記者のガイがやってくる。彼は危険な山岳パトロールの仕事を取材して、中国全土にそれを知らせるのが目的だ。だが彼がそこで最初に出くわしたのは、密猟グループに殺された隊員の葬儀だった。人々がまったく知らない場所で、密猟者とパトロール隊は血みどろの戦いを続けている。その数日後、パトロール隊に同行して密猟者を追跡し始めたガイは、生と死のぎりぎりで活動するパトロール隊の現実を知ることになる。

 監督は『ミッシング・ガン』のルー・チューアン。実際に物語の舞台であるチベットで撮影したという本作は、ドキュメンタリータッチの迫力で観る者を圧倒する。標高4,700メートルの高地では撮影クルーも俳優も高山病にかかり、撮影現場には救急車が待機し、しばしば点滴を打ちながら撮影を続けたという。映画にはパトロール隊が凍りかけた川に飛び込むシーンや、空気の薄い草原を走り回るシーンがある。空気が薄く乾燥しきった高地で走れば、心臓と肺には猛烈な負担がかかる。比喩でもなんでもなしに、文字通り肺が破れて血を吐くことになるのだ。こうした環境が観客の目に説得力を持って飛び込んでくるのは、やはり現地で撮影をした強みだろう。

 映画の中盤以降、主人公たちパトロール隊がより過酷な立場に立たされるようになる。食料も燃料も尽き、救援のあてもないまま、さらに先へ先へと密猟者たちの後を追っていく。一度は逮捕された密猟グループのメンバーも、物資の不足から数百キロ範囲で人っ子ひとりいない高原に置き去りにされる。車両の故障で、一部の隊員は高原に孤立する。その恐怖と孤独。ここまでしても、パトロール隊には政府や自治体から一銭の金も支払われない。すべては隊員たちの持ち出しなのだ。なぜ彼らはそこまでやるのか。それは死んで行った仲間のためだろう。仲間の死を無駄にしないために、彼らは自分の命をも投げ出すのだ。

(原題:Kekexili: Mountain Patrol)

6月公開予定 シャンテ・シネ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2004年|1時間28分|中国|カラー|スコープサイズ|SDDS、SRD、SR
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/mountainpatrol/
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