THE 有頂天ホテル

2006/03/10 錦糸町シネマ8楽天地(シネマ8)
三谷幸喜監督の最新作はホテルが舞台の集団ドラマ。
楽しくて面白い映画です。by K. Hattori

 大晦日の年越し客でごった返す都心のホテルを舞台に、さまざまな人間模様が交錯するコメディ映画。三谷幸喜監督にとっては3本目の監督作だが、多彩な登場人物たちそれぞれに個性的なエピソードを散りばめ、オールスターキャストのゴージャスな人間曼陀羅を描き出している。中心になるのは役所広司扮するホテルの副支配人・新堂平吉だが、彼が物語の単なる狂言回しにならず、ひとつのエピソードの中心になって右往左往し始めるというのが面白い。

 複数の登場人物を主人公格にして、複数のエピソードを同時進行させていく典型的なグランドホテル形式のドラマ。「グランドホテル形式」という用語は映画『グランドホテル』(1932)から取られているわけだが、この映画はその『グランドホテル』自体を強く意識した作品になっている。劇中に登場するホテルアバンティで、スイートルームの名前が『グランドホテル』出演俳優の名前になっているのはその一例。ホテルのロビーから始まり、最後にまたホテルのロビーで映画の幕が閉じられるという構成もそっくり同じ。『THE 有頂天ホテル』というタイトルも、当然『グランドホテル』のもじりだろう。(1936年のミュージカル映画『有頂天時代』も混ざっているようだ。)

 この手の映画は同時進行していくエピソードの中に突出して大きなエピソードがなく、全体が時計の歯車のように精密に組み合わさってひとつの世界を作ることが大切。そうした中でこの映画は、香取慎吾扮する引退ベルボーイのエピソードにからめて、小さな小道具が人から人へとエピソードを横断しながら一周するという仕掛けを作っている。この仕掛けが最後にピタリと決まったときこそ、映画を観る快感が味わえるのだ。

 どこを切っても見知った顔が出てくる映画にあって、ひとりフレッシュな魅力を放っていたのは、客室係の野間睦子を演じた堀内敬子。劇団四季出身で、舞台活動が中心の女優さんだとか。こういう見慣れない顔がひとつあると、そこから何が起きるかわからないという予測不能性が増して、映画の面白さは一段と増すことになる。この映画の彼女は物語の序盤から、背中にギターを抱えた小林旭風の渡り鳥スタイル。こんな客室係いるはずがないと思うのだが、それを正々堂々と押し通してしまえる勢いがこの映画にはある。

 大爆笑のクライマックスはないものの、最初から最後までハラハラドキドキニヤニヤさせられる映画。KOパンチはなくても、小刻みなジャブで得点を積み重ねていく作戦だ。しかし時折、ここ一番で放つ大振りのパンチが空を切る場面がある。今回の映画では津川雅彦の耳がそれだ。これは明らかにやり過ぎで、その後の芝居がまるでぶち壊しになってしまった。映画の上映時間と映画の中の時間経過を一致させるという構成になっているようだが、これは見せ方にもう少し工夫が必要だったと思う。

1月14日公開 日劇3ほか全国東宝洋画系
配給:東宝
2006年|2時間16分|日本|カラー|ビスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.uchoten.com/
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